京ごふく二十八

解答編:訪問着と付下げ

前回の問題提起編は非常に多くの方がご覧くださり、また興味深く読んで頂いたようで嬉しく思います。それだけ訪問着と付下げの違いについて疑問を持っていらっしゃる方々が多いという事でもあるのでしょう。

 

さて、今回は訪問着と付下げとの違いについて、私が考えている解答を公開します。解答は二つです。

 

ひとつめの解答は、皆さんが訪問着と付下げの違いで混乱しないための観点の提供です。

 

解答1.

●販売前と販売後で、付下げと訪問着の定義を変える必要がある。

つまり「呉服屋で販売されるまで」と「お客様のタンスに入ってから」を分けて考えなければならないのですが、これだけでは何のことかお分かりになりにくいですので、ご説明します。

呉服屋の販売員が訪問着と呼ぶ商品は、販売時点で仮絵羽(かりえば:仮縫いして着物の形)をしている商品のことです。呉服屋の店頭で「訪問着をください」といえば、着物の形をした商品を見せられます。そのため柄のフォーマルかカジュアルかによらず、訪問着をご所望になったらば、まずは反物状態である付下げは出てこないのです。

ところが前回書いた通り、訪問着のように豪華な柄の付下げもありますから、ここが皆さんの混乱されるところです。何しろプロの呉服屋からしましても、仕立て上がってしまえば元々その着物が訪問着として仮絵羽をされて売られていたか、はたまた反物状態で売られていたのか絶対の判断は出来かねます。せいぜい柄が軽めだから付下げだろうとか、八掛が同じ生地で柄も描かれているから訪問着だろうなどという推測の域を出ないのです。

だからこそ「呉服屋で販売されるまで」と「お客様のタンスに入ってから」を分けて考える必要があるのです。お客様が着物を所有されてから重要なのは、柄が訪問着のようにフォーマルなのか、付下げのように準フォーマルの柄付けなのかという事です。呉服屋で売られていた時に仮絵羽で着物の形をしていたか、反物状態で売られていたかという事は全く重要ではないのです。

フォーマルな柄であれば元々反物として売られていても訪問着としてお召しになれば良いですし、準フォーマルの柄付けならば付下げとしてお召しになれば良いわけです。ですから呉服屋でお求めになる場合、呉服屋が仮絵羽なので商品を訪問着と呼んでいるか、反物なので付下げと呼んでいるかはお気になさらずに、柄付けがフォーマルか準フォーマルかで判断される事が重要なのです。

 

「でも、そうは言っても訪問着は高額だから染めも良いんじゃない?八掛だって柄があって高級感もあるし。」

というご意見もあると思います。確かにそれも分かります。ですので、第2の解答を述べまして、皆さんがより良いお買い物がをできる方法をお伝えしたいと思います。

 

解答2.

●留袖、色留袖、訪問着は”ご祝儀価格”になっている。

”ご祝儀価格”と言えば聞こえは良いですが、要するに少し価格が高めに設定されているという事です。誰が高く設定しているかと言えば小売店と問屋だと思います。職人の染代などは大して変わりませんから。(なぜオメデタイ事のあったお客様の方が高いお金を払わなければならないのかはよくわからないのですが。。。)

確かに訪問着、留袖、色留袖は良い染めをされている商品も多いですし、製造過程で2回着物の形に仮縫いをする必要もあるので多少は価格も高くなるかも知れませんが、それでも2〜3倍も異なるようなものではありません。ですから私が染屋として仕事をしていますと、反物のまま作るか着物の形にして作るかによってそんなに大きな差はありません。しかしながら糸目に型を使っているように見える訪問着や、手描きであっても染め味のいまいちな訪問着でさえ、仕立上がりは安くても70〜80万円。手描きで最高級の染めを施していても、付下げとして売っているならば仕立てあがってもせいぜい50〜70万円というのは私からすると不思議でなりません。

結局のところ、訪問着や留袖、色留袖ならば、つまり仮絵羽をした着物の形ならば、多少高い値段を付けていてもお客様に受け入れて頂きやすいという販売者側の固定観念があるため、小売店と問屋でご祝儀価格とされているようです。

そうした着物の値付けにちょっと驚かれる御方もいらっしゃるかも知れませんし、「そうかも知れないわね」と納得される御方もいらっしゃるでしょう。ちなみに現在書いているのは呉服業界の全体的な傾向であり、全ての呉服店や問屋でそのようにしているわけではないですから、その点のみ誤解のないようにお願い致します。

余談ではありますが、もし皆さんが入店された呉服屋がちゃんとしたお店かどうか判断するためには色々なご質問をされたら良いかと思います。例えばその商品を手描きで染めているか、糊糸目(別名:赤糸目、真糊糸目)かゴム糸目か、型糸目かなどというご質問です。また糸目の特徴や、糊糸目とゴム糸目における地色と柄色を染める順番の違いなどをちゃんと説明できる呉服屋ならば良い呉服屋と思います。でも逆に数十万円、数百万円の商品を販売していて、基本的な製造方法も知らないというのでは、現代の消費者からプロフェッショナルとしては必要とされないのではないでしょうか。製造方法を知ることは簡単なお勉強でして、そんなに難しいものではありませんから。

 

ただ訪問着のように豪華な柄付けを、付下げ(反物)として作るには問題点があります。制作過程で柄の合口(縫い目における柄の繋がり)を合わせる事が難しいのです。そのため通常は下絵を描く段階で、着物の形にして直接生地に下絵を描けば間違いは無くすことができます。

では、なぜわざわざ付下げ(反物)として訪問着を作るのか。

そもそも付下げ訪問着の起源は、福田喜三郎さんがそれまで飛び飛びの柄付けであった付下げの上前(前身頃と衽)の柄を繋げたところから始まっていると伺っています。おそらく当時、需要がどんどんと膨らんでいく呉服市場において、新しい商品の開発をしたためだと思います。

しかしながら現在、付下げ訪問着が作られる理由は、「訪問着は100万円でも大丈夫、付下げは40万円ぐらいまでに価格を抑えないといけない」という問屋、小売店の固定観念があるからです。つまりもし小売店から問屋に「訪問着みたいな商品を作って欲しい、ただし金額は40万円まで」とリクエストがあった場合に、本当は訪問着にした方が製作上も非常にスムーズであるところを、無理やり反物状態の付下げで作ることによって卸値を抑えているのです。それゆえ作る現場にいる染屋や職人からは、「なんでこんな訪問着みたいな難しい柄を染めるのに付下げでやらなければいけないんだ??価格も大して変わらないのに」という声が聞こえて来るのです。

「良い品物は高い!」というのも本当ですが、品質の差は訪問着ならば訪問着の範囲での価格帯(70〜150万円)、付下げならば付下げの範囲での価格帯(40〜70万円)の中でしか差はありません。染めの品質だけで見れば70万円の付下げは120万円の訪問着に勝る場合もあるでしょう。

 

さて、では皆さんが一般の呉服店で良質なフォーマル着物(訪問着クラス)を低価格で手に入れるために最も良い方法は何かと言うと、

「最高級の染めがされている付下げ訪問着を選んで、八掛を表と同じ生地に柄付けして染めてから仕立ててもらうこと。」がベストです。

そうすれば50〜70万円までで、最高級の染めがされた訪問着と変わらない商品をお買い上げになることができるからです。

唯一考えなければならない難点は、表地と異なる時期に精錬した八掛を用いるので地色によっては若干色味が異なってしまうかも知れないことと、お求めになる付下げに最高級の染めがなされているかどうかという事を確認するのが少し難しいということでしょうか。

 

またもちろん訪問着にもメリットはありまして、

・着物の形になっているので、羽織った時に柄の豪華さやお似合いになるかどうかを確認しやすい。

・展示していてもやはり大きく広げられ迫力もあり、高額な商品なので「着物を買った!」という御満足感がある。

・付下げ訪問着にはない、非常に豪華な柄付けの訪問着もある。

というような事も、お買い物をされる上で重要なポイントになる事も申し添えておきます。

 

解答編、以上にて御終いです。また派生する解答は稿を改めます。訪問着と付下げの違い、皆さんが想像されていた答えとは、ちょっと違うアプローチだったかとは思いますが、一先ず「販売の前後で定義を変えた方が良い」、「訪問着はご祝儀価格」という事だけでも覚えて頂けましたら幸いです。

世の中には着物が大好きな女性が楽しそうにエッセイのごとく書かれているブログも沢山ありますから、私の書くようなお勉強のブログはお好きな方だけ読んでくださったら良いと思いますのでお気軽にお付合いください。もしご質問があったらいつでもどうぞ。

Comments (2)
  1. より:

    先日とある展示会で訪問着と言われて購入したお品物が付下げ訪問着でした。反物の状態で見せられて、?とは思ったのですが、販売員にはいってきたばかりで、着物の形(仮絵羽)になっていないだけで、訪問着です。との説明であったため、お着物の知識がないまま契約してしまいました。キャンセルもできず、悔しい思いをしていますが、本ブログを拝見させていただき、「箪笥に入れば訪問着。高い勉強代だった」と少し気持ちが救われました。ありがとうございます。

    1. futaya28 より:

      香さま、コメントを有り難う御座います。恵比寿にてポップアップショップをしておりましたので、お返事が遅くなりまして申し訳ございません。

      仰る通り、箪笥に入ってしまえば、販売時点の状態が反物であるか絵羽であるかは関係ありません。柄付けが豪華であれば訪問着としてお使いになれます。逆に絵羽で販売されていても、柄付けが軽ければ付け下げ相当になると考えます。香さまならきっと素敵なお着物をお求めと拝察しますし、せっかくお求めになったお着物ですから楽しんでお召しくださいましたら何よりです。お着物でたくさん素敵な思い出を作られてくださいませ。

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