御誂9-1 単衣訪問着(菊柄)
季節限定、単衣の上等な訪問着です。雰囲気は二十八が得意とし、最高に愛する仕上げ方で、たおやかな染め味に制作して行きます。
菊柄だけで表現するというのは、意外にも既成品では珍しいものですから周囲の方々を楽しませる逸品になろうかと思います。通常多いのは、秋草全般を織り交ぜた柄行です。秋草と言えば桔梗、撫子、萩、女郎花、藤袴、葛、尾花が七草でして、単衣の着物でもそこに菖蒲や紫陽花、そして菊などが加わるのが一般的です。
御誂主様はご身長が高く、スラっとして素敵な御方なので、菊とは言えども縦の流れを出せるように図案を何度も描き直して工夫しました。逸品になります。
まずは図案から。
◯上前
◯後身頃
この下絵だけで染め上がりを想像することは大変むずかしいことです。正直、あとは京ごふく二十八にお任せくださいと断言するしかありません。まずは何が難しいかと言うと、実際に工程が進んで染め上がると柄のボリュームが少なく見えます。現在の下絵、上前を単なる「絵」として見ると、正直、線が多過ぎると思うのです。花も葉も黒い線で描かれていますから、ちょっとごちゃごちゃしているように見えますが、これを友禅で染め上げると大変ちょうど良く豪華なボリュームに納まってきます。この辺りが下絵ばかりを描いている熟練の職人の経験が成せる技でしょう。
加えて現在はモノクロですが、京友禅の彩色によりカラーになって、現在黒い線で描かれた部分が全て糊糸目の生成り色で仕上がりますと、これまた雰囲気が変わってきます。
まずは色の微調整。下の写真の試し染め、右と左で若干染料の配合を変えています。この染料調整では一度ドライヤーで熱を加えて乾かして、実際に蒸しを掛けた状態に近づけて確認します。当然染料の液体を見ても染め上がりは全く想像がつきませんし、染めて濡れた状態の色味は濃く出ます。下の写真、ちょっと小さいですが、右と左の試し染めで染料を変えています。右の方がちょっと黄色みを帯びて派手に染まっています。わずか10センチぐらいの幅ですが、これで判断せねばなりません。ちょっと地味にも見えますが、これが着物の面積になると一段と派手になりますから、この染料の配合で染めようと決定しました。
こちらが染める染料と平刷毛です。この濃い緑色の染料で染めると写真のような薄い色になるわけです。
両端にロープでしっかり縦方向にテンションを掛けて、裏からは伸子で横方向にも張っています。
この写真を見て、「このまま染めちゃって大丈夫??」と違和感を感じる方は京友禅のプロフェッショナルです。普通の呉服屋でも違和感は持ちませんから、消費者の皆さんは安心してご覧ください。何が普通と違うかと言うと、茎と葉のところに伏せ糊が置かれていないのです。花には伏せ糊がしてあります。こうすると何が良いかと言えば、本来、葉と茎の周囲に残るはずの糊糸目が消えて、たおやかな雰囲気を表現することができます。この葉と茎にビッチリ糸目の線が残っていると何だか柄が浮いた感じになってしまうのです。
現代の手描き京友禅で主流となっているのはゴム糸目ですが、京ごふく二十八で使っている糊糸目は昔ながらのモチ米を使った糊糸目です。この糊糸目は京友禅のプロや、消費者の中でも着物通の方々の目から見れば、大変に味わい深く、喜びに溢れたものです。昨日も、とある西陣織の立派な会社社長から「京友禅も糊糸目で作っている着物がめっきり無くなったねぇ」と言われました。
しかしながらそんな貴重で、着物通の方にアピールできる糊糸目ではあるのですが、仕上がりのたおやかな雰囲気を求めると、この品物に関しては必要がないものになってしまうので消してしまいます。唯一、菊の花の周りの糊糸目だけは残しますので、染め上がり時にその違いをお楽しみ頂こうと思います。
京ごふく二十八で初投稿!貴重な動画です!
きもの部LINE
着物に詳しくなれるココだけの知識、
セミナー&イベント情報をお届けします!

京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
あわせて読みたい記事
-
クイック・ガーデニング通信にて
関東、東海エリアを中心に植木屋さんを展開される株式会社クイック・ガーデニング様の冊子「クイック・ガーデニング通信」において、京ごふく二十八の写真が掲載されました。 家紋のお話で、京都のみならず日本で一番家紋のことを情報発 […]
-
鉄腕ダッシュにて。
鉄腕ダッシュに少しだけ写りました。 こちらの令和の帯は、すごく評判が良いので、メディアに出た回数は圧倒的に一番だと思います。 なにが驚いたかと言うと、最近ハマっていた高橋がなりさんの人生相談をYouTubeで見ているまさ […]
-
コロナ対策実施中です
ただいま、京ごふく二十八のアトリエではコロナ対策を実施中です。 消毒液、マスクもしくはフェイスシールド、アクリル板により、感染拡大の防止に努めております。 若干の話づらさはあるかと思いますので、お客様が気にされないようで […]
人気の記事
-
誰でも一瞬で【付け下げと訪問着の違い】を見分けられる京都の秘伝!
すべて読むと【15分】 流し読みで【5分】 訪問着と付け下げの違いについて、実をいうと、プロの呉服屋でも矛盾なく説明できる人はほぼいません。なぜならば販売現場だけでなく、着物ユーザーの実際、友禅の製造現場まですべてを知ら […]
-
[2020年]呉服店では怖くて聞けない【訪問着 値段の相場】プロが教えるここだけの話
訪問着の値段について、初めて着物を買おうと思われる皆さんは「相場っていくらぐらいなのだろう?」と迷われる方は多いものです。 ズバッと「いくらぐらいの訪問着を買ってください!」と言えれば良いのですが、そこはお買い物をするお […]
-
決定版!【着物の種類】は完全制覇!着物の13種類をプロが徹底解説!
「着物に挑戦したい」と思っても、種類が豊富な和服は初心者にはどれを選べば良いのか悩ましいもの。 本記事では「着物の種類や特徴」「帯の使い分け」について、たっぷり解説します。女性の着物だけではなく、男性の着物についてもご紹 […]