職人も未来へ。
デグロリンは抜染するための薬剤です。京友禅の製造過程で、たまに使われます。抜染においては非常に性能の良いのが、このデグロリンです。ところが、このデグロリンを作っていた会社が廃業されたそうで、二十八(ふたや)は現在、職人さんが手元に持っている在庫を頼りにしています。
よくベテラン職人からは材料が足りないと言われます。材料というのは刺繍屋さんにとっては手作りの針、糸、金糸、駒(金駒を巻く台)、針のない伸子、糸を巻く竹の管などです。他にも染屋さんにとって死活問題なのは良質の刷毛でしょう。昔からこれらの材料を作るのはそれぞれ専門の職人さんでしたが、使う職人さんが高齢化、廃業している最中、こうした材料、道具を作る職人さんはさらに厳しい状況です。もうとっくに廃業してしまっている業種がたくさんあり、それは消費者の耳に入らないでしょう。
ベテラン職人さんに、私が「職人の後継者を作りたいんです!」とお伝えすると、
「そんなん絶対無理やで!昔とは人間が変わってしまったからな。今の若いもんに10年も給料なしで辛抱できるやつがいるとは思えんし、そんな仕事を出来もせん若い職人を二十八さんで雇ったら大変だからやめときや。」
「だいたいこの業界は室町の問屋が無茶して潰してしまったんや。こんな先のない呉服業界の中でも一番先のないのが職人や!だからこんな先のない仕事をするのは、先のない人間しかおれへんのやから年金もらってる年寄りばっかりやろ。通知表で3以上取ってる奴は呉服業界なんか入ってきぃひんで。」
「若い人に、将来は職人が少なくなるからしっかり仕事を覚えたらなんとか食って行けるで、なんて無責任なことを言ったらいかんわ。原くんはいえるかもしれんけど、普通は言えん。」
こんな話を20〜30分、私が全く口を挟む間もなく言ってくださいます。皆さん、当然ながらそれだけのご体験をしてこられて、私のことも、職人として飛び込もうとしている若者のことも考えて言ってくださいます。
それでも私は、着物が大好きなお客様、これから着物を着てみたいと思っている男性女性によく接しているので、どうしても可能性を感じずにはいられません。いや、可能性を感じるというよりも、可能性があるはずだと自分で勝手に強く思い込んでいます。
ですから誰かに「呉服屋なんか可能性ないよ」と言われたとしても、「呉服業界はまだ2900億円の市場がありますし、ライバルになるようなエクセレントカンパニーもありませんよ」なんてお答えしますが、結局のところ私にとっては呉服業界が2兆円あろうが、100億円しかなかろうが関係ないのです。
私が呉服屋をやりたいから、勝手にやっているだけなんです。
アスファルトから生えてくる大根のように、小さい小さい収穫なのかもしれませんが、そこにはとてつもなく大きな感動を覚える力強い可能性を感じるのです。一般的なビジネスマンには呉服業界に可能性なんて感じないでしょうけれどもそれで良いのです。私が勝手に感じているのですから。
一生懸命にやっても僕一人の力は本当に小さいです。どうか皆さん、引き続き力を貸してください。
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
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