お手入れ:留袖 若松柄 ~その2~
おはようございます!
先日お話しました留袖のお手入れについての続きです。
今回、留袖のお手入れのポイントは大きく言って2つあります。
1.黒染め
2.胡粉と金彩
他にも作業は色々とありますが、この2つの工程によってこの留袖は見違えるように美しく仕上がることでしょう。
その第一段、黒染めが仕上がって来ましたのでご報告です。
まずは写真を御覧いただきましょう。
これは縫い糸で2枚の生地を縫い合わせている部分の写真です。写真左側の縫い糸はグレーに、同じく右側は白くなっている様子がお分かり頂けると思いますが、グレーの縫い糸部分は黒染めをした箇所で、白い縫い糸部分は黒染めをしていない箇所です。そのため白い縫い糸の上部付近の生地は茶色味がかったグレーになっています。
つまりこの留袖を黒染めする前の全体の地色が、茶色味がかったグレーだったわけです。それを今回黒染め専門の職人さんに染めてもらうことで真っ黒に染め上げています。最初、黒染めする前の留袖をお預かりした時点では、私も品物を拝見してそんなに色褪せていないようにお見受けしておりました。しかしながらお客様が以前、ご結婚式でお召しになった時、皆さんと比べるとやはり色褪せていたとのこと。色というのは比較しないと確かに分かりにくいものです。今回もお客様の眼とご判断が正しかったと思います。ちなみに茶色味がかったグレーは仕立て上がると縫い込まれてしまう部分ですのでご心配なく。
黒染めする前、この茶色味がかったグレーが着物の全体の地色だったと考えると確かに昔の品物という感じがしてしまいます。黒染めをしまして今は真っ黒なので本当に生まれ変わった印象となっています!!
ところで、、、
「呉服屋さんで、留袖は染め直しはできないって聞いていたけどできるの??」
と思われた方もいらっしゃるかも知れません。確かに全ての古いお手入れ物に共通するリスクとして破損の可能性はありますが、それさえご了承頂けましたら“できる”と言えるでしょう。呉服屋がお断りする理由としては、やはり万が一にも破損した場合の弁償リスクが一番です。自社取り扱い商品であればまだ新品を再度お作りすることもできるかも知れませんが、他店で購入された品物であったり、思い出のこもった何十年も昔の優品であったりすると、価格評価を含めその弁償としてどれだけの事ができるか分かりません。またその割にはあまり利益はないですし、手間は大いにかかるものですから、呉服屋が通常避けているのも仕方ない事なのでしょう。呉服屋にとってのお手入れ仕事をもっと分かりやすく申しますと、「100万円の弁償をするリスクを負うのに利益は5万円」という商取引なのです。それに比べるとそうしたリスクのほとんどない新品を販売して、10~20万円の利益を上げる方を優先させる会社の方針は間違っているとは言い切れません。
本来、そうした呉服屋の裏事情を消費者の方々に申し上げるべきではないかも知れませんし、書きながら何度も躊躇しましたが、専門呉服店でお手入れを断られたがために思い出ある着物をあきらめてしまわれる方々があまりにも多いので今回言及致しました。一般的な呉服屋はお手入れが主たるビジネスではない事をご理解の上、皆さんが接してくださいましたらと存じます。
それゆえ、おすすめ致しますのは着物のお手入れ専門店に出して頂くことです。なぜならば着物のお手入れ専門店は“お手入れそのもの”から利益を得ていますから当然お手入れ仕事に対して積極的です。呉服屋がお受けするかお断りするか50:50(フィフティ・フィフティ)でお話を伺うのとはスタンスが全く異なります。お客様が呉服屋にお手入れを頼まれても、結局呉服店はお手入れ専門店に持って行って作業をしてもらうわけですし、お手入れだけから利益を得ている専門店であれば仕事を受ける前提で話を聴いてくれますから三方良しなのです。
そんな理由でおすすめのお手入れ屋さんを一軒掲載。
0120-782-780
京都、東京日本橋、金沢
吉本さんにお仕事を頼まれる時にご注意なさるべきポイントは料金です。大変丁寧な仕事をして、破損の保証などもする代わりにが高料金なので、事前にお見積りを頼まれる事をオススメ致します。見積もりに付随してご説明もきちんとあると思いますので料金にご納得されたらあとは安心して待つのみです。
他にもご紹介できるお手入れ屋さんはありますが、なかなか簡単な事ではないのでご希望がありましたら個別に御声掛けください。例えばある地方のお手入れ屋さんで、お電話されても普通の家庭に繋がった時のような対応な上、お手入れ上がりを送ってくる時もそのへんにあったかのようなダンボールにくるまれて来たりするお店もあります(笑)。ただし仕立て上がった状態のまま水洗いをしてくれるので、なかなか気持ち良い仕上がりにはなっていますし、何よりカビだらけの着物を水で丸洗いしてもらって4~5千円ぐらいなので安いです。
話が呉服屋、お手入れ屋の裏事情までなってしまいましたが、最後にとても大切な事を書いておきます。
確かに二十八では正直に色々なお話をしまして、私どもで承ったり、他店をご紹介したりは致します。しかしながらちゃんとした専門呉服店、二十八ももちろん含みますが、そうしたお店であれば自社で販売したお品物に関しては必ず責任を持ってお手入れ致しますし、数十年昔にお買い上げ頂いた品物に関しても出来る限りのお手入れをする事と思います。ですから「自分のところの商品しかお手入れしないなんてケチだなぁ」なんて思わずに、馴染みの呉服屋さんと良いお付き合いをしてくださればと思います。老舗でお買い物するメリットは孫子の代までワンストップで着物の萬を整え(調え)られる事にありましょう。
一般的な呉服屋の心情を肩代わりしてご説明しますと、1年に一度、若しくは2~3年に一度でも帯や着物の1点をお買い上げくださるお客様であれば、おそらく自社商品以外のお手入れでも受けてくれると思います。さきほども申し上げました通り、新しい商品を販売する事が呉服屋の主たるビジネスでありますけれども、高額な商品をお買い上げくださる顧客に対してはできる限りのサービスとしてお手持ちの着物、帯のお手入れやコーディネートのアドバイス、はたまた京都の美味しいお店のご紹介までしてくれると思います。ユニクロだって他社商品の裾上げはしませんし、自社商品であっても袖直しはしていません(笑)。ユニクロで30万円買ってもおそらくできないものはできないでしょうし、美味しいお店のご紹介はないはずです(笑)。ちなみに私はユニクロでアルバイトをして起業資金を貯めるほど、ユニクロが大好きですのでそこは誤解頂きませんように。(#^.^#)
二十八は新しい呉服屋なので比較的きっちりしているかも知れませんが、昔ながらの呉服屋は曖昧な部分を多く持ちますのでお客様も情緒(いい加減なお気持ち)を持ってお付き合いされると一番良いかも知れませんね。
二十八は老舗以上の心意気ですからなんでも頼ってくださいましたら嬉しいです!
留袖の今後には乞うご期待!!
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
あわせて読みたい記事
-
【青花紙】のご紹介
本日は、京都新聞に掲載されていました「青花紙、担い手育成」に関する記事を、ご紹介します。 まず青花紙(あおばながみ)についてご説明しますと、青花紙とは原料となるアオバナ(オオボウシバナ)の色素を染みこませた和紙のことです […]
-
【染め帯】作成課程のご紹介
こんばんは。ブログをご覧くださり有り難うございます。 京都は、少しずつ暖かくなり、春の花々も咲き始め、ようやく春らしくなって参りました! さて、近頃は、春に咲く花を描いた着物や帯を順次製作しておりました。 […]
-
【袱紗】戌年の本年にぴったりです!
いつもブログをご覧いただき有難うございます! 平成30年は戌年ということで、円山応挙が描いた子犬をモチーフに、袱紗を作成いたしました! ほんの一部ですが、作成過程をご紹介したいと思います。 下絵:下図職人が描きます。 & […]
人気の記事
-
誰でも一瞬で【付け下げと訪問着の違い】を見分けられる京都の秘伝!
すべて読むと【15分】 流し読みで【5分】 訪問着と付け下げの違いについて、実をいうと、プロの呉服屋でも矛盾なく説明できる人はほぼいません。 これを皆さんが本当に理解しておいてくだされば、それだけ無駄な買い […]
-
呉服店では怖くて聞けない【訪問着 値段の相場】プロが教えるここだけの話
訪問着の値段について、初めて着物を買おうと思われる皆さんは「相場っていくらぐらいなのだろう?」と迷われる方は多くいることでしょう。 ズバッと「いくらぐらいの訪問着を買ってください!」と言えれば良いのですが、着物に対する価 […]
-
【リオ】小池百合子 東京都知事の着物を賞賛すべき8つの理由。
リオ閉会式における小池都知事の着付けや、立居振舞について、ネット上で多くの批判が並んでいる様子を見て非常に驚きました。なぜならば小池百合子さんのお着物姿、完璧と言って良いぐらいの着物選び、コーディネートだったからです。 […]