二十八 新作付け下げ制作中:糸目糊
皆さん、こんにちは。
現在、9月下旬予定の御誂え受注催事に向けて付下げの見本を染出ししております。その一つ目の糊置きが完了しましたので、ご報告致します。
蛤(はまぐり)散らしの付け下げで、写真は上前、膝辺りの柄です。輪郭線だけが描かれている事がお分かり頂けるかと思います。この輪郭線が赤くなっているのは蘇芳の色で、昔ながらの糯米(もちごめ)を使った真糊である事が分かります。これがゴム糊の場合は水色の輪郭線になるのです。善し悪しはそれぞれあるのですが、この赤い糸目、真糊を使った糸目は京友禅の世界でもほとんど使われておりません。糸目糊を置く職人が自家配合で作るのですが、その手間であったり、製造工程の難しさ(地色染めと友禅挿しの順序など)などの理由で敬遠されて来たのでしょう。
しかしながらこの糯米を使った糸目の仕上がりは非常に味わい深い良さがあります。それは生成り色になった仕上がりでもありますし、人の手を感じさせる温もりがある糸目になるからです。こちらは染め上がった見本を参考にまたご説明申し上げます。
工程としては、糊糸目が終わりましたので、次は挿し友禅です。挿し友禅、もしくは友禅とも呼ばれる作業は柄の色を染めて行く工程です。もっと簡単に申しますと「ぬり絵」のような作業なのですが、やはり職人の技術により仕上がりは大きく異なります。よく出される例はボカシの上手さなどですが、私が近年考えている挿し友禅の極めて重要なポイントは色遣いのセンスの良さです。
糯米を使った赤糸目で、地色も良くて、全体の構想も良かったとしても、この挿し友禅による柄の色によって垢抜けない印象になる事はよくあります。
染屋さんにはだいたい特徴的なカラーがあって、職人はその理想とする色を一緒に追求する存在です。ですから職人さんのセンスだけではないのですが、最高の染屋さんと長く一緒に仕事をしてきた職人さんというのはやはりセンスも超一流となっています。とりわけ今回取材させて頂いた職人さんは、現在二十八がお願いしている最高の染屋さんだけが出入りしている職人さんなので、絶対に顔出しや住所が分かるようにはしないでほしいと頼まれました。他の染屋さんがこの色出しをできる職人さんを探しているからです。当然かも知れませんが、それだけ技術とセンスを持った職人さんは重要なのだと私も実感をいたしました。
さて、今回染屋さん、染屋さんと連呼していますが、これは悉皆屋さんの事です。余計わからなくなった方もいらっしゃると思いますので、簡単に呉服業界の構造をご説明しますと、
「お客様」 ← 「呉服屋」 ← 「問屋」 ← 「染屋・悉皆屋・染匠(せんしょう)・メーカー」 ← 「様々な職人」
となっています。 「染屋・悉皆屋・染匠(せんしょう)・メーカー」と書きましたが、役割は同じで呼び方の違いだけです。
というわけで、話は消費者の皆さんが接する呉服屋について触れますが、皆さんがよく「○○屋さん好み」だとか「○○さんの商品はセンスが良い、品質が間違いない」と一般的によく耳にする言葉はある意味真実ですが、より深く品質やセンスを追求していくと矛盾する事が出てきます。
呉服屋は数軒から数十軒の問屋を回り、自分のところの好みに合致した商品を仕入れたり借りたりして来ます。そして問屋も同じように数軒から十軒程度の染屋、はたまた別の問屋を回って商品を仕入れたり借りたりして来ます。そうしますと呉服屋にある商品に関わっている染屋さんというのは少なくとも何十軒とあるわけですし、そこにぶら下がる職人というのは何百人となっていきます。そうすると先ほど述べたような挿し友禅の職人にセンスと技術があるかどうかを、呉服屋の立場で管理することはほとんど不可能な事となってしまいます。
ただ祇園齋藤さんや、東京の不二屋さん、石川県と京都の美術友禅山之内さんのようにきちんと商品の品質管理をしておられる呉服屋さんもいらっしゃいますので、皆さんもご参考になさってください。銀座にある染の聚楽さんのアンテナショップはそもそも呉服屋ではなくメーカー、問屋ですが、品質管理はできていますので同じく皆さんのご参考になるかと存じます。なお、これらのお店は全て小売りをしておられるお店の好例として書いています。悉皆屋として品質管理をされている方はもちろんもっとたくさんいらっしゃいます。
いずれにしろ現代において商品の品質を管理しながら多くの商品を揃え、お客様が満足するブランド力、立地、店舗、知識と技量のある社員まで雇いながら経営を続ける事は極めて大変な事なのかも知れません。
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
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