【世の中で語られていない、プロの着付けを活かす必須の準備ポイント4つ】
「着付け」という分野は、呉服業界の中でも非常に活発な分野だと言えるでしょう。無料、有料問わず、着付け教室の数や、習っている生徒さんの人数も相当なものです。
そして、日夜、良心的に着付けを教えておられる先生方、着付け師さん達には頭の下がる思いです。それゆえ、おそらく着付けの先生、着付け師さんも深く同意してくださるであろう趣旨と思っています。
結論から申し上げるならば、
「着物姿の完成度は9割以上、着付け師さんの所に来るまでに決まっている」
ということです。それゆえどれだけ美しい着付けをしたとしても、すでに完成してしまっている9割を変えることはできません。二十八が申し上げる9割というのが何を指すのか、4つのポイントに分けてお伝えします。
寸 法
着付けをする段階では、着物は仕立て上がっていますから、もちろん寸法は決まっています。着付け師さんの所には着用の日の直前に持ち込まれますから、もうそこから仕立て直しをする時間の余裕もありません。
美しい着付けのためには、「寸法」ほど重要なものはないかも知れません。
身体に対して、大き過ぎても小さ過ぎてもいけませんが、どちらかと言えば多少大きいぐらいが着物の着付けの場合はやりやすいと言えるでしょう。もちろん大き過ぎると大変ですが、小さい場合に比べればそこに工夫の余地は残ります。
身丈が短いとおはしょりが取れませんし、裄が短いと手首から先がニュッと出てしまいます。ご本人にとって狭い身幅の着物を着ていると、右脇の縫い目が目立ってしまい、ちょっと太って見えるかも知れません(実際はそうでなくても)。
ピッタリの寸法であれば、たくさんの補正をする必要もありませんし、スッと着付けることができます。
TPOに合っていない
そんなに多くあることではないと思いますが、TPOに合っていない着物をお客様が着付け師さんの所に持って来られたというお話も耳にします。結婚式のお母様のご衣裳や参列の方のご衣裳です。
普段着はそこまでこだわらなくて良いですが、人生の節目であり、写真にも残る冠婚葬祭は、やはりある程度のルールにのっとって着物選びを考えたいものです。
コーディネート
TPOと重なる部分もありますが、コーディネートの適切さやセンスの良し悪しを着付けの段階で変更することは不可能かと思います。
例えば、結婚式に着られるぐらいの訪問着でありながら、合わせてお持ちになった帯が、カジュアルな雰囲気の染めなごや帯ではちょっとバランスが良くないものです。
他にもダメというほどではないものの、着物と帯の色柄があまりマッチしていないということもあると思います。TPOが違うというほどではないものの、完璧な着付けをしたいと考える着付け師さんにとっては、「もっとマッチする帯、小物はなかったのだろうか」と思われることでしょう。
コーディネートも、着付けの段階では変更が難しいポイントです。
着物の品質
着物の品質は、着付けに携わる方々はよく見ているものです。私の存じ上げている着付け関係の方々は例えレンタルの良いとは言い難い品物であっても、「お似合いですよ」、「可愛らしいですね」と言って送り出しているはずです。もちろんそれは事実ですし、私も共感するのは、
“洋服という選択肢もある中で、着物を選んでくださって有り難うございます!”
という気持ちです。
ただ、やはり本当に素晴らしい着物を着付ける時にはまさしく感嘆されるようです。その様子は唸るがごとくかも知れません。
「本当に素晴らしいお着物ですね!」
「この刺繍のボリュームは見たことがないほどですね!」
「こんな素晴らしい着物を着付けられるのは嬉しいです!」
「素晴らしい着物を着つけたい」
そんな思い、着付け師さんならきっと持っておられることでしょう。
素晴らしい着付け師さん達
着物の寸法にしても、着物のコーディネートや品質にしても、着付け師さんがこの段階でお伝えするのは非常に難しいものがあります。
なぜならば、お客様はこの大切な日を前にして着物という勝負服に着替えようとしているまさにその瞬間に立ち会い、サポートするのが着付け師さんだからです。
だからこそ、素晴らしい着付け師さん達は、「これは素敵なお着物ですね!!」、「ハレの日に相応しい最高の装いですよ!!」と声掛けをして、お客様を景気良く送り出してくれるものです。
たまに、
「しきたりとしてはこの持ち物はちょっと違う」
「七五三にはあの持ち物が必要だけど持っておられない」
といったケースにも遭遇するもの。そんな時でも、
「まぁ大丈夫ですよ!」
と気持ち良く送り出してくれてこそ、お客様は気持ちよく1日を過ごせます。
その時点でネチネチと
「本当はこれが必要なのに、なんで持ってこないんですか??」
なんて責められてはお客様も困りますし、せっかく着物を着る1日を気持ち良く過ごせません。
急いで用意して間に合うようなことはお伝えしてあげれば親切だと思いますが、着付けの段階で
・着物の寸法が合っていない
・着物があんまり良い品質じゃない
・コーディネートがいまいち
・TPOに合っていない
こんなことをお伝えしても、改善することができないですし、「誰かがもっと早く教えてくれれば助かったのに」とお客様も思われるでしょう。
だからこそ、上記の部分は責任を持って呉服屋がお手伝いするべきだと思います。
そして最期の仕上げをしてくださるのが着付け師さんですから、「着付け師さんに気持ち良く、やり甲斐のある仕事を届けられるかどうか」は、呉服屋に端を発しているといっても過言ではないと言えるでしょう。
着付けの技術を活かすために
着付け教室の先生方が微に入り細に入り、着付けのポイントを教えてくださっても、ご本人の持っている着物が様々なことで不十分では、その着付けの技も十分に活かせません。
だからこそ良い呉服屋との付き合いが大事だなと思いますし、着付けの先生がイマイチな着物を販売することもご自分の首を絞める結果になってしまうと考えます。
職人 → メーカー → 問屋 → 呉服屋 → 仕立て屋 → 着付け師
という相互補完の良い流れを作って行くことが大切です。なぜならば後になればなるほど自由度は下がるからです。
良い着付け師さん、着付けの先生は「呉服界の宝」です。商売っ気もなく、職人肌の素晴らしい方々がおられます。その技が本当の意味で活かされるために私もベストを尽くします。
(良い着付けの先生がいらしたら、ご紹介ください。二十八のお客様にご紹介させて頂きます)
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
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