国内養蚕業の市場規模は1億円!!
年間1億円を出せる人、企業があれば、日本の歴史ある養蚕を救う英雄になれます。
幕末の開国以降、「シルクで軍艦を買う」とまで言われ、外貨獲得の最大手段であった養蚕。シルクで買った軍艦などにより、日本は存続できました。絹に支えられて近代日本が存在すると言っても過言ではありません。
当時の養蚕は、今でいうなら自動車や半導体産業のようなものですが、その養蚕の衰退ぶりが凄すぎて、どうしても皆さんに知っていただきたいと思います。
養蚕の現状
養蚕農家数
昭和4年 2,210,000戸
令和5年 145戸
生産量
昭和5年 400,000トン
令和5年 45トン
市場規模(推定 by 原)
昭和5年 1兆円
令和5年 1.1億円
※1kgあたり2500円として。昭和5年の金額は、生産量に同額をかけて算出。
国内に流通する国産シルクのシェア
0.16%
(もちろん輸出なんてありえません)
いかに絶望的な数字かお分かりいただけますでしょうか。私も流通する国産シルクが0.5%ぐらいまではフォローしていたのですが、ここまでになったことは知りませんでした。
市場規模が1億円というのは、もはや産業と呼べるものではないと思います。
考えられる対策としての「補助金」
すでに補助金も出ているとは聞いていますが、保護すべき産業として年間1億円ぐらいの予算を出して、国でもどこでも糸を全部買い上げ、価格メリットにより事業者へ使用を促すべきかと考えます。
もちろんTPPなんて言っている場合でもなく、海外産シルクにしこたま関税をかけても良いのですが、現在の呉服事業者は99%海外産のシルクを使っているので、そちらへの原価圧迫も大きくなります。ですから、国産シルクへの補助金拡大が望ましいところです。
1億円ぐらいの産業を保護したところで外圧なんてかからないと思います。むしろシルクの国内需要は625倍もあるわけですから、それを国産シルクがある程度獲れるようにすべきです。
国からの手切れ金35億円
国内の養蚕に対する最後の補助金として出されたのが、「蚕糸・絹業提携支援緊急対策事業」と呼ばれるもの。平成20年(2008年)から平成28年あたりの予算として消費されたそうです。
養蚕は、国から産業として見放され、当時、手切れ金と噂された35億円の補助金が投入されました。そのお金を使って自活の道を探れ、そのあとは自己責任だと。
当時、大日本蚕糸会を通じて呉服・製糸事業者が35億円を消費したと思うのですが、その結果はいかがなものでしょうか。いまだに自活どころか、絶滅の危機に瀕しています。養蚕農家に毎年1億円を直接補助すれば35年分の予算にすることもできました。
衰退と絶滅は意味が違う
着物文化にしても「必要とされないものが衰退する」のは仕方ないという論理はよくわかりますし、私も同意するところです。ただ、「衰退」は仕方ない面もありますが、「絶滅」となると意味が違います。
神宮(伊勢)の式年遷宮は20年に一度やってきますが、その時に用いる絹は愛知県豊田市のものだとか、愛媛県の野村町のものが用いられるそうです。式年遷宮に、中国、ブラジルの絹を用いるのはいかがなものでしょうか。しめ縄の大麻などと同様です。
ただ、年間1億円ぐらいで養蚕業が継続する可能性があるのであれば、はたまた、欲を言って3~5億円ぐらい出してもらうことで、日本の近代化を支えてくれた伝統ある養蚕を守っていけるのであれば、日本としてそのぐらいやってもバチは当たらないか思います。
日本のシルクの価値
日本が有する養蚕の技や資産もご多分に漏れず、大したものです。
日本でもファンが多いエルメスは、世界中のシルクを探し回って、最高と思われたのがブラジルにあるブラタク社のシルクでした。ブラタク社は、ブラジル拓殖組合の略称で、日本からの移民が持って行った蚕種(蚕の卵)や技術が元になっています。
上記は過去のシルク資産の一例に過ぎませんが、日本で長く改善してきた蚕種は多く保存されていますし、日本の風土、養蚕、製糸から染色、製織などまで含めたノウハウは世界最高レベルのものと考えられます。
国産糸を使う意義
染織材料界の大御所であり、染織文化のために全てを捧げる生き字引、下村撚糸の下村輝さんに教えていただいたことですが、国産の糸を使う意義は、乾繭(かんけん)という乾いた繭ではなく、生の糸を引けることだそうです。
通常、繭の中には蛹が入っているため、熱風乾燥で殺蛹(さつよう:蛹を殺す)します。蛹を殺さないと、孵化してしまい、糸が採れないからです。
シルクはタンパク質ですので、髪の毛に同じで、ドライヤーで強く乾かすと痛みます。流通するほぼ全てのシルクはこの乾繭ですが、アシザワ養蚕さんの糸は冷凍により殺蛹するため、ものすごく美しい糸が取れるそうです。塩蔵(塩漬けで蛹が窒息)も乾繭に比べると良い方法ですが、冷凍はさらに優れているそうです。
確かに私も強く同意するのは、国産糸であるというノスタルジックな訴えかけだけではダメで、最終製品になった時のクオリティの差が、一般消費者にでも感じとれるレベルでなければならないと考えます。
まだ、国産糸を使った白生地(継続的に友禅にも使えるもの)に、私は出合えていませんが、今回のご縁で違いが分かる国産糸の白生地に出合えたら、ぜひ挑戦してみたいと思います。
皆さん、「日本の絹マーク」にダマされないように
日本の絹
「日本の絹」と書かれたマーク。これが意味するのは「日本で織るか染めるかした絹です」というもの。つまり海外のシルクを使ってもこちらのマークが付与されます。
もちろん国産の糸と、海外の糸が混じっている可能性もありますが、流通量から考えても、このマークが付いた反物は、「海外の絹」と言っても差し支えないものです。
立派な老舗の販売員が、この日本の絹マークの反物を指しながら、「こちらは日本産の絹を使った正真正銘の国産シルクです!」と力説しているのを見て、本当にガックリしたこともあります。
現行の日本の絹マークはやめて、青い色にして「海外シルク」とか、「シルク」などという表示にすべきもの。間違っても「日本」なんて文言を付けてはいけないなと思います。
大日本蚕糸会が変えないならば、皆さんから消費者庁に苦情を言うべきと思います。
日本の絹 純国産
本当に日本産のシルクを使ったものには、こちらの「純国産」というマークが付きます。確かにこちらを見れば、両方の違いはわかりますが、流通量0.16%ゆえ、呉服屋をやっていても、普通にしていたら全く見かけません。
このマークができた当初は、各工程の生産者について記載があったのですが、現在はほぼ無くなっていると聞いています。
希望を感じる要素
一方で、希望的要素もあります。
1.TOKYO BASE元取締役が独立 日本のシルク産業再興を掲げた新会社を設立した理由
シルク中心のブランド WITH OR WITHOUT。素晴らしい経歴の社長さんが経営されているので、ビジネスの成長に期待が掛かり、色々とご教授願いたいところです。
2.世界のシルク市場は年間8.33%の成長率で伸びていくと予想されている。
2023年が約2.8兆円、2035年の予想が7兆円越え(養蚕、糸、製品など、どの段階の市場規模かは不明ですが、おそらく最終製品でしょう)。海外に販路を求めれば可能性はありそうですが、最大のネックは海外シルクと比較しての、価格対品質パフォーマンスと思われます。
3.ドイツのAMsilk GmbHは、約40億円の資金調達を実施。
養蚕を工業として経営し、タンパク質としての可能性を探る場合は、ビジネスになり得るようです。相当なビジネスマインド、スキルがないとできないでしょう。
まとめ
養蚕補助金1億円を、企業として、もしくは個人的に出してくれる人がいるのであれば、式年遷宮の時には特等席で拝めるのではないでしょうか(希望的観測)。
今回、アシザワ養蚕の芦澤洋平さん、とよた衣の里プロジェクトの大林優子さん、染織材料界の大御所、下村撚糸の下村輝さんに教えていただき、大変勉強になり、また、強く刺激を頂きました。聞いてて涙が込み上げてくる内容でした。呉服屋ですから、養蚕には大変お世話になっているのに情報をフォローできておらず、すみません。
芦沢さん、大林さんは養蚕業界、希望の星です。
皆さんにも知っていただくだけで、大きな力になります。国産シルク商品を手にとって買って頂けたら何よりですし、心の中だけでも応援していただけると嬉しく思います。
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
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