呉服店でのお買い物:価格で悩んだ時に考えてほしい品質のこと。
先日、経験豊富な呉服屋さんとお話をしていたら、その方が、
「やはり初めての方であっても、価格で妥協せず、何年かけてでも良いから良い品物を買ってほしい」
と仰っていました。私もこのご意見に強く同意をする者です。
なるほど確かに呉服屋がこういう物言いをすると、高額な商品を買ってもらいたがっている感じがするかも知れません。しかしながら、さにあらず。
というのも、呉服店のお客様が時々つぶやく「なぜ初めての頃はあんな着物を買ってしまったんだろう。。。」というお言葉を耳にすることがあるからです。
審美眼の成長
初めての方にとっては、呉服店で着物を購入するという体験そのものが高揚することであって、お好みやお顔うつりなどには注意が行っても、着物の品質までは気が回りにくいものです。その一方で、販売員に対して「これは良いものですか?」とも聞きにくいことでしょう。また、尋ねたところで、販売員は友禅の品質について理解していませんから、大体は徒労に終わります。
初心者で着物に眼が慣れないうちは、シルクに古典的な柄が染まっているというだけでも眼が満足できるのですが、次第に眼が慣れてくると、品質が十分でない浅い染めでは満足できなくなって来ます。
実際、それは京都で呉服屋を起こした私も通って来た道です。
完全なる素人の頃は、なんとなく持っていた感性みたいなものだけでの判断であり、その後、呉服店に勤めてからも、すぐ品物の良し悪しがわかるようになったわけではありませんでした。
ただ、1~2年ほど呉服店にいると、パッと見ただけで見飽きる着物と、何ヶ月見ていても、見るたびに満足できる着物とがあることがわかって来ました。その時に気づいた満足できる着物の共通項が、糊糸目(のりいとめ)というもち米の糊を使った友禅染めでした。
その後、呉服店には5年ほど勤務したのですが、その時点でも、結局のところ、最高に良い友禅染めの要件はつかめきれていませんでした。先ほどの糊糸目というのも及第点であって、最高点というわけではなかったのです。
最高の友禅染めに出合う
そして、2014年の起業直前、職人さんを含めて様々な価値ある出会いがあり、最高の友禅というのが見えてきたのです。その要件は、全ての工程において、最高の職人が携わっていることでした。最低でも主要な工程に最高の職人が携われば、良い友禅染めに仕上がります。
二十八にいらしてくださるお客様は、勘所の良さで最高の友禅とそうでない友禅の微差をと見抜いてくださっているからこそ、お買い求めくださっているのだと思います。
2023年に至る今でも、もっと良い友禅とは何かということを探し求めてはいますが、もはや微差過ぎて、皆さんが気にされるようなレベルのことではなくなっています。
今、危惧していることはこうした友禅染めができているのはベテラン職人さん達のお陰であり、もし、10年後か20年後に、ベテランの方々が引退されてしまったら、現在の私は正直、この仕事を続けて行く自信がありません。というのは、自分の眼の満足ができなくなった状態では、強い自信を持っての販売ができないからです。
そのためにやるべきことは、若手職人の育成であり、そのためにやるべきことも見えています。この話はまた改めて。
皆さんの審美眼
27~28歳の頃から、私は起きている間中、着物のことを考えたり、勉強したりして来ました。呉服屋になってからは夢の中でも着物を販売しているぐらいに着物のことにどっぷりとはまって経験を積んだ経緯があります。それゆえ、今、京ごふく二十八でご提供しているのはその「結論」だけです。
一般の皆さんが、着物についてそこまで時間をかけることは当然ながらなかなか難しいものです。だからこそプロの呉服屋が代わりに研鑽を積むのだと思います。私が15年をかけて到達した判断基準ですが、皆様も長い年月の中で、同じような眼を持たれた時には、「なぜ初心者の頃は、こんな着物を買ってしまったのだろう」というお気持ちになってしまうので、なるべく目の満足が長く続く着物をご購入頂きたいなと切に願います。
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
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