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特別コラムSpecial Column

「黒・リバーシブル・裏勝り」というチャレンジ    お誂え主:清水恵子さん(スタイリスト) Vol.02

ファッションの世界の第一線で長く活躍するスタイリストの清水恵子さん。たくさんの服に触れてきたおしゃれのプロがオーダーしたのは、既成概念を超えた着物。審美眼の持ち主の妥協のないリクエストに、京ごふく二十八、そして京の職人たちの新しくて、心躍る挑戦がはじまったのは2020年10月。その完成までの軌跡を追いました。第2回は、一着の着物が完成するまでの作業工程を、あまり表には出てこない職人とその熟練の技ともに紹介します。

 

伝統を受け継いだ職人たちが紡ぐ最高クオリティの一着

京ごふく二十八でお願いしている職人たちは、誰もが手間暇惜しまず、実直に、丁寧に仕事と向き合っている熟練の職人ばかり。誂え染めで紋を入れるには、最初に糊を置く紋糊屋、置かれた糊を落とす紋洗い屋、染め抜かれた紋に上絵を描く上絵屋と、3人もの職人が携わります。ただこうした分業制は多くの仕事があってこそ成り立っていたのも事実。現在の呉服生産量は最盛期の2~3%しかなく、職人の高齢化も進んでいます。高度な職人技術を残すためにも、お客様のご要望に応え、最高のクオリティの着物を職人たちと作る、それが京ごふく二十八の使命だと考えています。今回も清水さんの熱意に応えるべく、絶大な信頼をおく職人たちにオーダーをしました。

 

膨大な量の中からベースとなる白生地選び

清水さんと一緒に2軒の白生地屋をまわり、数えきれないほどの生地のなかから理想に近いものを探しました。生地のもつ艶感や凹凸の影などにより、同じ色で染めても違って見えるので白生地選びはとても重要なのです。しかも、色柄の染まっていない真っ白な生地は、ニュアンスが微差なためプロでも選ぶのが難しいと言われるほど。ただ、そこはキャリアのあるスタイリスト。あまたの生地を見極め、好みのものを見つけ出すまでに、さほど時間はかかりませんでした。どちらかと言えば、瞬時に好きなものが目に止まるといった印象です。最終的に選んだのは、黒無地用の「小浜菊」とカトレア地紋。リバーシブルの懸念事項でもある重量感をクリアするため、軽やかな生地にしました。

たくさんの白生地を見比べながら、好みのものを探します。

 

白生地選びのワンシーン。実際に顔まわりに当てて、理想の生地をチェック。

 

カトレアの無地をブルーグレーに染める「引き染め」

「引き染め」とは、着物の染色加工に使われる伝統的な技法で、生地を引っ張って刷毛で染めるこの技法は、世界でもあまり例のない染色法です。カトレア地紋の色無地を、清水さん希望のブルーグレーに近づけるために、今回は二度染めを行うことにしました。2回染めることで深みのある色に仕上げるためです。

引き染め屋から生地があがった段階で、東京にいらっしゃる清水さんにお写真と共にご報告差し上げたところ、「工程のレポート嬉しいです。写真で拝見すると、やはり感動しますね!」と大変喜んでいただきました。着物を作る工程がリアルタイムでわかるので、お客様にも一緒に作り上げている感覚を味わっていただけると思います。

その後、引き染めで染めた染料を生地に定着させる「蒸し」、蒸した後の生地を流水にさらして余分な染料を洗い流す「水元」、蒸気を当てて生地の長さや幅を整える「湯のし」という工程をふみ、カトレア柄の染めの完成です。

 

熟練の職人の技が光る紋入りの黒無地

紋を入れる黒無地は、カトレア地とはまた違うプロセスをたどります。おそらく気の遠くなるような繊細な分業作業に驚かれるはずです。

まずは、新しい白生地の幅や長さを整えるため「下のし」を行います。続いて、身頃や袖、衿、衽(おくみ)などの位置を決める「墨打ち」。今回は紋を入れる位置を決めるために墨打ちは絶対に必要な作業となります。そして「紋糊置き」。清水さんのリクエストにより、背中に一つ紋を入れます。紋の形にゴム糊を置く作業が「紋糊置き」です。生地を染めてから最後に糊を落とすと、紋糊を置いた部分が白く染め抜かれます。今回は、丸なしの木瓜紋を通常より5厘(1.9㎜)ほど小さいサイズの糊紋を職人にお願いしました。微差ですが、それでもさりげなく控えめで上品な印象です。

紋糊置きは、集中力が必要な繊細な作業です。こちらの様子に、清水さんからは「素敵な空気感。職人さんたちに感謝ですね」とのお言葉も。

いよいよ黒に染める工程です。実は、着物では黒に染めるのを専門にした「黒染め屋」という職人がいます。実際に黒染め屋「山田黒」を訪ね、さまざまな染め上がりの黒を見た清水さんのたっての希望で、今回は「三度黒」という技法で染めることになりました(注:現在はお受けしておりません)。

まずは、「血の木」と呼ばれるログウッドで赤味の褐色に染め、2回目、3回目と染料を重ねていくので、「三度黒」と称されます。最後に、水洗いをして完了です。

2度目の染めが終わった段階の生地。なんとも言えない濃紺です。

現在は、摩擦による色落ちや経年による退色にも強い「染料ブラック」をおすすめさせていただいております。こちらは漆黒と表現したくなる深く美しい黒に仕上がります。

黒染めが終わったところで、紋の最終工程です。「糊紋置き」で置いた糊を落とすのが「紋洗い」。今回は3回の染めにもかかわらず、綺麗に白く抜けて仕上がりました。さすが職人技。その後、「柔軟湯のし」で生地の幅と長さを整えたあと、さらに紋の総仕上げである「紋上絵」の工程に。糊紋を落とした状態では紋の輪郭が曖昧なので、墨を使って紋の細部まで描き、くっきりと仕上げます。手描きならではの、微妙な優しい線が特徴です。紋ひとつとっても、細かな分業のうえに成り立っている、それが着物の世界の奥深さでもあると思います。

 

リバーシブル着物の仕立てへ

カトレア生地、黒無地生地のどちらも染め上がったら、それぞれ「地直し」作業を行います。どの職人も細心の注意を払いますが、意図せず染料が付着したり、シミがついたりすることも。それらをきれいな反物として仕上げ、撥水ガード加工を施し、ようよく「仕立て」の段階に。リバーシブルのため、通常の裏地とは縫製が違いますが、そこは職人の熟練の技術でカバー。手縫いで一針一針ていねいに仕立てていきます。ここまで、何人もの職人の手を経て、ようやく一着の着物が出来上がるのです。

京ごふく二十八では、これらの工程を「悉皆屋」として担当。今まで培ってきたプロフェッショナルな職人との信頼関係を基に、お客さまのニーズに最高品質の着物でお応えしています。また、時代の流れとともに、職人の数が減ってきているのも事実。プロセスの進捗を写真と共に報告差し上げるのも、少しでもプロの仕事をみなさんと共有し、職人の技を大切に守っていきたいからです。お誂え主の清水さんにも、その都度写真を送り経過報告をさせていただきましたが、「東京と京都で離れているにもかかわらず、できあがるプロセスを拝見することができて、とてもワクワクしました」と喜んでいただきました。完成した着物の着こなしはVol.03で披露いたします。

Photo: HAL KUZUYA, FUTAYA

Text: SHIHO AMANO

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この記事を書いた人
原 巨樹 (はら なおき)

京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。

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