「付け下げは〇〇」という人が訪問着と付け下げの違いを絶対にわかっていない理由
付け下げという言葉、とてもよく聞くとは思いますが、それをきちんと説明できる人は呉服店にもなかなかいません。
「付け下げは〇〇」という人が「訪問着と付け下げの違い」を絶対にわかっていないとするのは、ちょっと強い主張かなとも思いますが、話を進めましょう。
〇〇に入る言葉を説明すると、
〇〇=とびとびの柄で、縫い目で柄が繋がらない着物
です。つまり「付け下げはとびとびの柄で、仕立て上がった時に縫い目で柄が繋がらない着物」と“だけ”いう人は、訪問着と付け下げの違いが絶対にわかっていないと私は考えているのです。
この話はとても丁寧にお伝えしなければいけません。なぜかと言えば、多くの呉服屋さんがそのように説明していますし、ネットの記事ではほぼ100%に近いぐらいでそのように書かれているだけあって、全く当たっていないかと言えばそうでもないからです。ただし、上記の説明だけで完結しているとすれば、販売現場、着用現場での実際を理解していないことだけは断言できます。
「付け下げがとびとびの柄」という定義がもっとも矛盾する場面
私がこの定義を間違いだとあえて断言する理由は「消費者を混乱させてしまうから」です。なによりも問題視するのは「販売現場」における矛盾です。
おそらくあなたが「付け下げを買いたいので、見せてもらえますか?」と呉服店の販売員にたずねれば、必ず付け下げとされる反物を見せてくれるはずです。付け下げは訪問着を簡略化した着物で、柄の天地、身頃や袖部分などのパーツが設定されて染められています。
そこであなたが「付け下げってどんな着物のこと何ですか?」と尋ねれば、販売員は「付け下げというのは柄がとびとびで、縫い目で柄が繋がらない着物のことです」と答えるかもしれません。そして、これが矛盾点なのですが、その販売現場に見せられた付け下げの反物は、ほとんどがとびとびの柄ではなく、縫い目でしっかり柄が繋がる着物ばかりだということです。推量でしかありませんが、8〜9割の付け下げ反物は、柄が縫い目で繋がる着物ばかりだと思います。特に上前(衽(オクミ)と前身頃)などはほとんどの付け下げで柄が繋がっていますし、よく呉服店の販売員がいう「訪問着は胸と衿の柄が繋がっています」という要素を持った付け下げさえ珍しくありません。
そうすると当然ながら、お客様としては「この販売員さん、付け下げはとびとびの柄だと言うけれど、実際、付け下げとして見せてくれる反物の柄はとびとびじゃないわよね。。。」と矛盾を感じると思うのです。そしてそれは当たり前の感覚だと私は思います。
「付け下げはとびとびの柄」とだけいう人は呉服の販売現場で働いたことがないとしか考えられない
販売現場で働いたことがある人で、付け下げはとびとびの柄ですという人がいるとしたら、ちょっと本気でどういう考えの持ち主なんだろうと思います。何しろ、その人が販売する付け下げの反物には確実に縫い目で柄の繋がった、とびとびではない柄の着物があるはずだからです。もし例外があるとしたら、数少ない、本当に柄がとびとびで、縫い目で決して柄が繋がらない反物だけを仕入れている気骨ある呉服屋さんがいたら話は別かも知れません。
でも、そういう仕入れをしていなかったとしたら、なぜとびとびではなく、縫い目で柄が繋がった付け下げとされる反物を販売しながら、「付け下げはとびとびの柄で、縫い目でも柄が繋がりません」と説明できるのかはちょっと理解にくるしみます。
真面目な推察をするならば、こうした販売現場の人たちは昔からの慣習にしたがっているだけで、悪気があるわけではないのですが、慣習を疑ったことがない気の良い人たちだとはいえるでしょう。それがどのような慣習かといえば、訪問着は絵羽(えば)という着物の形に仮縫いした状態で入荷し、付け下げは反物の状態で入荷されるという慣習です。そして確かに50~60年の昔には、絵羽として入荷する着物は柄が豪華で、付け下げの反物として入荷する着物は柄がとびとびだったかも知れません。しかし現代では製造と流通を原因として、非常に様々な商品が入り混じるようになりました。それゆえ付け下げの反物の中にも、訪問着のように豪華な柄の着物が存在するので、それを本仕立てして着物の形にしてしまえば訪問着との大きな区別はほとんどなくなるのです。
ちなみにそうした訪問着のように豪華な付け下げの反物を、「付け下げ訪問着」とよぶ呉服屋さんも数多くいらっしゃいますので解説しました。
【付け下げ訪問着】とは!?プロでも悩む付け下げ訪問着を徹底解説!
「付け下げはとびとびの柄」と書かれているインターネットの記事
インターネットの記事、それもトップに出てくるような記事であっても、「付け下げはとびとびの柄です」とだけ書かれています。そして一緒に掲載されている写真は明らかにとびとびではなく、縫い目で柄が繋がるような反物を付け下げとして掲載していたりします。なぜそこに矛盾を感じないのかなと私は思います。呉服屋が書いている記事もありますが、最近はライターさんが書いている記事も増えているも原因の一つでしょう。
なぜライターさんがわざわざ着物の記事を書くかといえば、着物関連企業が自社ホームページのページビュー数をかせぐためです。レンタル着物のサイトや着物買取のサイトが、皆さんが検索しそうなキーワードを集中的に使って記事を量産し、検索順位の上位を狙います。資金力のある会社が取り組むケースが多いです。
ところが、そうした記事はどうやって書かれるかといえば、着物に関する知識のないライターさんが、キーワード検索して出てきた複数の上位記事から、似たような内容を抽出してなんとなく無難にまとめます。キーワードが繰り返し出てきてさえいれば上位に食い込めるので、それ以上の価値を提供しようという気概は見えません。でもなんとなくわかったようなわからないような、うすーい内容になっているかなと思います。明らかに京ごふく二十八の記事を見て書いたなと思うところもありましたが、肝心要の「訪問着と付け下げの違いの見分け方」については真似されていませんでした。他に同内容のことを言っているサイトがないだけに、真似をしづらかったのだろうなと思います。
そもそも呉服屋でさえきちんと理解することが難しい内容を、一般的なライターさんでは書ききれないのではないでしょうか。もちろん着物のことに詳しいライターさんもいらっしゃるとは思うのですが、私が考える基準として一般的なレベルの呉服屋でさえも着物にはあまり詳しくないと認識しているので、そうした呉服屋よりも詳しいライターさんがいるかといえば、それはさすがにちょっと厳しいかなと思います。当たりさわりのない記事ならばライターさんも書けるでしょうし、文章が苦手な呉服屋が書くよりもずっと良いとは思いますが、着物の深みを伝えたり、本質的な部分に切り込んだ記事を書くのは難しいことでしょう。
京ごふく二十八の記事については、もし着物ユーザーや呉服販売店、着物メーカーや職人さんなど、どんな立場の人が何かを言ってきても、きちんと答えられるようと思って書いていますから、それだけの覚悟はあります。私が記事を書くにあたっては、何よりも着物についてわからないことがあって困っている着物ユーザーさんの疑問を解決できることを第一に考えていますし、第二に呉服業界の良い人たちができるだけ傷つかないようにと思って書いています。
なぜライターさんの記事について私がそんなに断言できるかといえば、何を隠そう、私も自分で記事を書き続けるのが大変だったため、ライターさんに委託しようとトライしたことがあったからです。それもかなりの文量をダーっと書いたまとめ文を渡して、再構成をしてもらったのですが、それでも皆さんに大切なことが伝えられる本質的な記事には仕上がりませんでした。そのライターさんがとても有能な方だっただけに、私もそこであきらめがついて、やはり着物について知っている人間が書かなければならないのだと覚悟ができたのです。
やはりリアルな販売現場で本当に頭を悩ませたり、考え抜いたりした経験こそが本当の知識となるのですから、ライターさんに本質的な記事が書けないことは当然のことでしょう。そしてそれと同様に考え抜いていない呉服屋にとっても本質的な記事を書くのは難しいかと思います。
付け下げとはどういう着物か
では、付け下げがあらためてどういう着物かということをお伝えすると、
付け下げは控えめな柄のフォーマル着物
です。
フォーマル着物としていますから、仕立て上がった時に柄が肩山、袖山に向かって上向きになっていますし、袖や身頃などの各部位に適切な柄が描かれています。控えめな柄としていますから、もちろんとびとびの柄、つまり余白が多いデザインであれば控えめな柄ですから、とびとびの柄であれば付け下げとも言えるでしょう。しかしながら、とびとびの柄ではなく、柄が縫い目で繋がっていたとしてもそこまで格調高い柄でなければ付け下げとして控えめに着られます。
結局のところ、販売現場で反物であったかどうかは関係なく、皆様のタンスにおさまった状態で、柄が控えめなフォーマル着物であれば付け下げ、柄が豪華なフォーマル着物であれば訪問着とお考えになればTPOについて悩むことはかなり減るだろうと思います。胸で柄が繋がっていようが、八掛が表地と同じ生地に染まっていようが、そうしたことは枝葉末節です。
よりくわしくお知りになりたい方はこちらの記事を読んでください。訪問着と付け下げの違いについて大変ご好評をいただいている記事です。
付け下げと訪問着の違いを見分けるたった1つのコツ!【2020年 決定版】
付け下げにまつわる色々
付け下げがどういう着物かということを質問される場合、その質問をしてくるのは99%一般の着物ユーザーです。そうであれば私はその着物ユーザーさんにとって一番役に立つことを第一にお答えしたいと思います。それが「付け下げというのはパッと見で、控えめな柄のフォーマル着物ですよ」という答えなのです。そこでピリオドを打ってしまいたいのです。柄がとびとびだとか、縫い目で柄が繋がるとか、八掛を見てください、とかお伝えすると細部に気を取られて一番大切なことがわからなくなってしまうと思います。
もちろんとびとびの柄の付け下げもあると思いますし、50〜60年前の昔は全ての付け下げ反物がとびとびの柄だったかも知れませんが、まず一般の着物ユーザーが理解すべきは、ご自分の着用するTPOで付け下げを求められたら、「ちょっと控えめなフォーマル着物を着ていけば良いんだな」と理解することなのです。
付け下げというのは非常に使い勝手の良い着物で、コーディネートする帯次第で、格調を変化させられるので、突き詰めると豪華な訪問着以上に奥が深い着物だと思います。特に今の時代は着物のニーズが変化していて、豪華な訪問着よりも付け下げの方が帯次第で幅広く着用できて、現代の気分にマッチしているともいえます。もちろんそれぞれのお立場で豪華な訪問着を必要とする方がいらっしゃるのは当然なのですが、付け下げ着物の使い勝手が、現代の着物ユーザーに喜ばれるケースが増えているということです。
是非、皆様にも付け下げ着物に親しんでもらえたら嬉しいです。
付け下げの反物の中にも訪問着のようなデザインをされた着物があるという矛盾を突いて、リーズナブルに訪問着を購入する方法がこちら。
参考記事:絶対に失敗しない【訪問着の購入法!】
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
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