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着物購入のポイントColumn

呉服屋とどう付き合うべきか?知れば怖くない呉服屋の歴史、老舗呉服屋のリアル。

呉服屋での納品風景

「一生使える着物を買いたいけれど、呉服屋さんに入るのは勇気がいる…」

「呉服屋さんでは高額な着物しか売ってないのではないかしら?」

「若いと相手にされなさそう…」

など、呉服屋には入りづらいと思っている方は非常に多いのではないでしょうか。

今回はいつものブログ記事とちがい、京ごふく二十八に頼まれた外部のブログ担当である私、雪乃が呉服屋の雰囲気や、呉服屋ならではのメリットについて紹介します。実際、京都・東京の専門呉服屋・老舗呉服屋を多数まわってまとめた記事です。これから呉服屋で買い物をしようと思っている方にはきっと参考になると思いますので、ぜひ読んでみてください。

 

関連動画:【皆さんのせいではない‼︎】呉服屋は一般常識をこえた商売がゆえに、その話が理解できないのです。5つの切り口でその実態をお伝えします。


なお、店名を知りたいと思われる方はこちらの記事へ。

【東京のお店紹介】老舗呉服店・専門呉服店

プロが教える【京都の呉服業者42選】老舗呉服店・専門呉服店・メーカー・問屋・悉皆屋まで

呉服屋とはどんなお店のこと?

呉服は中国からわたって来た絹織物の総称でもありました

まず、呉服屋とはどんなお店のことなのでしょうか。

簡単にいってしまえば「着物と帯を中心として、和装小物などを売っているお店」です。くわしい方にはあたり前すぎたかと思います。

多くの有名デパートは元々呉服屋であり、呉服を販売している店でした。その名残でデパートの呉服売り場には、今でも充実した着物・帯・小物など和服関連の品物が並んでいます。

そもそも呉服とはなにか?

それではさらにもう一歩踏み込んで「呉服」とは何かということを考えてみると、初めての皆さんにも呉服屋のイメージがより明確になると思います。

呉服とは通常、着物(和服)全般をさしますが、狭い意味では「絹織物」のこと。なぜ絹織物のことを呉服というようになったかといえば、呉の国から来た織物工女を呉服(読み:くれはとり、呉織)とよんだことがルーツで、古事記・日本書紀にも記述があるようです。

呉服さん・綾羽さん姉妹について

呉服と書いて「くれはとり」と読むのは、あまりなじみがないかと思いますが、大阪の池田市にある呉服(くれは)神社には仁徳天皇だけでなく、呉の国から渡来して機織り技術を伝えてくれた呉服(くれはとり:人名)さんが祀られています。

呉服神社(くれはじんじゃ@大阪府池田市)

呉服さんが渡来したのは4〜5世紀ごろのようですが、一緒に姉妹である綾羽(あやはとり:人名)さんも渡来しています。呉の国を代表して渡来した呉服・綾羽姉妹が、織物の達人だったことは想像にかたくありません。さらに呉服神社ホームページによると、この姉妹は渡来後も昼夜をとわず布帛(ふはく:絹の布)を織ったそうです。そうした仕事への取り組み、生き方が当時の人々の尊敬を集めたからこそ、仁徳天皇に功績をたたえられてご祭神にまでなったのでしょう。

「呉服」もそうですが、「綾・羽」というワードは現代の着物においても大切な言葉になっています。

たとえば西陣織を代表する錦地(にしきじ)のベースになっている織り方は「3枚綾(さんまいあや)」などといいます。また「羽二重(はぶたえ)」とよばれるごく細い経糸(たていと)で織られた繊細な織物は、「筬羽(おさわ)」という機織り機のクシのような部分に通常は1本のところ、2本も経糸が通るので羽二重と呼ばれています。「呉服・綾織・筬羽・羽二重」などのワードをみるに、明確な根拠が文献に残っているわけではないのですが、この呉服・綾羽姉妹の影響が1600年以上もつづいていることを思うと、呉服屋にたずさわる方々は大いに感謝していることでしょう。

なにしろ生まれた呉の国に今生の別れをつげ、遣唐使船よりも前の時代、危険な船旅で日本海を超えて呉の織物技術を伝えてくれたわけです。それにしてもこの呉服神社が大阪の池田市にあることや、西陣織のルーツとなった技術は応仁の乱で避難した京都の職人が、大阪の堺で織物技術を学んだことなど考えると、着物のルーツは大阪抜きに語れないものがあるようです。

呉服という言葉の変遷

話を戻しまして、当時は漢の国の衣服が漢服(かんふく、漢織)、華南の呉の国の衣服が呉服(ごふく、呉織)でした。世界最先端の絹織物がこれらの地域で織られていたので、当時の日本人も輸入し珍重しました。

室町時代には呉服屋は大資本の商売となり、江戸時代には呉服屋(小売店・問屋)として大きく発展しました。その中で、呉服は「中国織物」全般をさすようになり、江戸時代のころまでには「絹織物」全般をさすようになっていたようです。余談ですが、絹織物を呉服とよぶことに対して、麻や木綿の織物を太物(ふともの)とよびます(最近はあまりよびませんが)。

ですから江戸時代のころから呉服屋という場合には絹織物を扱うことが標準であり、当時、呉服屋の販売する絹織物を着られる人は高貴な人や裕福な商人に限られました。

昭和〜平成の呉服屋

そして第二次世界大戦前後の物がなかった時代から高度経済成長期へと移行し、物を所有することに憧れる価値観へと変化します。

さらに絹織物の工業化もあり、呉服業界のガチャマン時代(昭和25年ごろからの好景気。「ガチャガチャ」と織れば「万」と儲かる時代)を通じて、呉服の大量生産・大量消費が70〜90年代まで続きます。そうした中で昔は絹織物を着ていなかったような一般の人々まで、ひろく絹の着物が購入・所有されるようになりました(良いことだと思います)。

ですから現代の呉服屋は一般の方向けではあるものの、そもそも高級・高額な絹織物を扱うのが呉服屋であり、昔ながらの呉服屋であることを矜恃とする老舗呉服屋が入りにくいのは、ある意味当然ともいえるかも知れません。

なお、上記の理由により木綿や麻の着物を中心に扱うお店のことは、呉服屋というよりも「着物屋・和服屋」とした方が自然かなとも感じます。ただ、呉服屋でも木綿・麻の着物をあつかうことはありますし、厳密にそこまでこだわる人は少ないですが、使いわけるとしたら上記のようになるでしょう。

呉服屋の雰囲気は?

以上のように呉服屋はそもそも高級品である絹織物をあつかうお店ですから、どこのお店も入りにくい雰囲気があります。とりわけ老舗呉服店は門構えが重厚で、店内も見えづらく、高額なものが多いため、どうしても入りづらい印象があると思います。

それだけに「相手にされないんじゃ…」と入店をためらう人も多いことでしょう。ですが今回の取材を通じて感じたのは、多くの呉服屋さんは意外と「フレンドリー」なのではないかなということです。

呉服屋も、着物離れが進んでいることや、着物の購入が高額な買い物であることは十分理解しているでしょう。そんな中、着物に興味を持ってくれて購入まで検討してもらえるお客さんがいるのは嬉しいはずです。良い呉服屋であれば、プロの立場からあなたにぴったりの着物を見つけたり、着物に関する疑問に答えたりと力になってくれるでしょう。

呉服屋に入っても買い物をしなければいけないわけじゃない

当然ながら「お店に入ったら何か買わないといけない」などと気負わなくて大丈夫です。むしろ「お店に入っただけで何か買わないといけない」なんて変なことは絶対にありません。

初めての呉服屋では「今はじっくりと着物を探しているんです」などと言って、見るだけにしておきましょう。いきなり売りつけようとする呉服屋もあると聞きますが、そういう呉服屋では購入せず、お店を出るようにしてください。むしろあなたが「欲しくない」のに押し売りに負けて買ってしまうと、呉服屋側が「無理にでも売り込めば売れる!」という「お客様を幸せにしない営業」に励んでしまうので、ひろく世のためにもなりません。

「そんなに気が強くないわ」という方もいらっしゃるでしょうけれど、これはけっこう大事なことです。

呉服屋の上顧客は気に入らなくても買う?!

昔ながらの呉服屋で上顧客といわれるような方々は、自分があまり好きではなかったり必要がなかったとしても、お付き合いだけで着物を購入していました。そして実を言えば、いまだにそうしたお買い物は呉服屋においてかなりよくあることです。これが良くないのは自明で、呉服屋の努力が「お客様をねんごろにすることばかり」に向いてしまうのです。

決して悪いことではないのですが、それが行き過ぎてしまった結果、「お客様がどのような着物ライフを求めているか」「良い商品とはいったいどんなものか」「買いやすい価格とは?」「これまでになかった新しい商品を提案したい」などといった商品へのこだわりや発展がなくなってしまうのです。なにしろ顧客との関係性だけで販売してしまうのですから。

だからこそ、これから呉服屋とお付き合いをしようと考えるあなたは、「自分の着物ライフにマッチして、愛せる着物」を購入するように心がけてください。それが良い呉服屋を育てることにもつながります。

よくある「今日までが特別にお安いです」という売り文句もありますが、呉服業界の年間市場規模が2800億円であることに対して、流通在庫は3〜4兆円もあるので機会をあらためても間違いなくお値打ち品は見つけられます。とにかくあせって不満足の着物を買うことがないようにしましょう。

何度も通って、じっくりあなた好みの着物を見つけるのが理想の着物に繋がります。

着物を呉服屋で購入するメリット

近年では、呉服屋以外に、インターネットやリサイクルショップなどでも気軽に着物を購入できるようになりました。そんな中、呉服屋で着物を購入することには、どんなメリットがあるのでしょうか。

メリット1.思い入れのある着物が見つかる

呉服屋で着物を購入する1つ目のメリットは「着物への思い入れができる」ことです。

呉服屋で着物を選ぶときには、家族や大切な人と一緒に選ぶことも多いもの。家族と冠婚葬祭について話し合ったり、母娘で着物を共有する話をしたり、家紋について確認する機会にもなったりします。そうしたじっくりと着物を選ぶ時間を含めて、忘れられない思い出になるはずです。

親子で選んだお母さまの着物を受け継ぐと、一緒に呉服屋で選んだ時間も優しく思い出させてくれるでしょう。

また、呉服屋の販売シーンでは「販売員」もかなり大切な役割をはたします。呉服の販売は衣類でありながら、洋服とはちょっと違って特殊だからです。

ひとつにはお客様が自由に見られるようになっていないこと。たとえば反物ひとつ広げるのにもご自分で広げるのはむずかしいかと思います。何しろ広げたあと元どおり巻くためには技術も必要です。着物の形になった絵羽(えば)という商品などはさらに積み重ねられていて、とてもではないですが、一般の方が自由に広げられる商品ではありません。

次の項目でプロ販売員の必要性も書きますが、そうした販売員が気持ちよく商品を見せて接客してくれることによって、お買い物そのものが思い出になるケースも多いようです。それらが着物そのものへの思い入れに繋がります。

メリット2.着物のプロに一から十まで相談できる

呉服屋ではなんでも相談しましょう。

呉服屋で着物を選ぶ2つ目のメリットは「着物のプロに一から十まで相談できる」ことです。

着物をえらぶためには少し専門的な知識が必要です。たくさんある商品を見ても、自分が着たいシーンで使える着物がどれなのか判断するのはなかなかむずかしいもの。えらぶ着物によっては、フォーマルすぎて着用シーンが狭まる着物や、逆に帯次第で着用シーンが幅広くなる着物など様々な候補があります。ですから、あなたの着用シーンのご意向、お好み、ご予算などを、ご遠慮なくすっかりお話して、呉服屋の販売員にお薦めしてもらう方がより良いお買い物につながります。

さらには呉服屋でのお買いものは着物だけを選んでおわりではありません。帯や帯締め・帯揚げ・草履・バッグ・和装小物なども必要になります。それだけに「どんな帯をあわせたらいいのかな?」「わたしには派手すぎないかしら?」「自分が知らないマナーがあるのでは…」と不安になる方もいらっしゃるはず。さらに、できればお手持ちの帯や小物とのコーディネートまで聞いておけたら安心ですね。

呉服屋販売員の知識・見解は人それぞれなので、完璧な答えというのはありませんが、それでも呉服のプロ。どんな些細な質問でもしっかり回答してくれることでしょう。

もっと正直にいってしまえば、呉服屋で購入をする最大の価値はこの「着物のプロに相談できること」だと考えます。

商品のよしあし、あなたの着物ライフの中でどのようにその着物を役立てられるか、TPOの相談、着物・帯・小物のコーディネート、ご予算内でのコストパフォーマンスなど、こうしたことに答えてくれる呉服屋の販売員ならば多少商品が高かったとしてもそれだけの価値はあると思います。呉服屋の販売現場では、お客様が自由に反物や絵羽(えば:着物の形の商品)を広げて見るのが難しいだけに、こうした販売員に適切なおすすめをしてもらうことは、それだけ満足度の高い呉服購入につながります。そして、その販売員がそこまでのプロフェッショナルになるまでに呉服屋は経費をかけているわけですから、それが多少は価格に反映されるのも一般的なことです。

ただ、こうした価値を提供できない、つまりプロとして不十分な呉服屋の販売員であれば単なる商品お披露目係なので、インスタやネット通販の画面の方が、余計なことをしゃべらないだけマシかも知れません。ベテラン販売員を頼る顧客の方が呉服屋に多いのは、ベテランであれば、少なくともお客様を信頼させるだけの深い知識と経験を持っているからだといえるでしょう。

メリット3.お手入れやアドバイスなどのアフターフォロー

呉服屋でクリーニングを頼むとプロの職人に託してくれます。

呉服屋で着物を選ぶ3つ目のメリットは「お手入れ(クリーニング)などのアフターフォローもしてくれる」ことです。

呉服屋は、着物を購入するだけの場所ではありません。洋服のクリーニング店で着物を取り扱うお店もありますが、基本的なことしかできないはずです。餅は餅屋で着物専門のクリーニング技術にはものすごく奥深いものがあります。ただ、街中に着物専門のクリーニング店はあまりないですよね。ですから呉服屋で着物を購入しておけば、汚れてしまった場合のクリーニングなど、気兼ねなくアフターフォローをしてもらえるのが安心だと思います。

もちろん「先日購入した着物、お茶会で着るには何を合わせたらいいの?」などコーデイネートの相談をしてもOK。いったん関係性ができれば、その呉服屋で購入した以外の、お手持ちの着物についても相談できるのは大きなメリットです。呉服屋は着物のことをトータルサポートしてくれる何でも屋さんだと思っていただいて問題ありません。なお、着付けのサポートはできるお店もあればできないお店もあるので確認が必要です。

本当は特に買い物をしていなくても、質問すればお手持ちの着物やクリーニングなどについても答えてくれると思いますが、そこは逆に皆さんにとってちょっとハードルが高いようです。だからこそ良心的でセンスの良い呉服屋と出会えたら、しっかりとお付き合いして行きつけの呉服店にするのは良い方法だなと思います。

メリット4.呉服屋の「看板」をふくめて買える

呉服屋の看板、つまり呉服屋としてのブランド価値をどれぐらい評価するかは人によると思いますが、やはり呉服購入の際の評価として必ずあると思います。

呉服屋の看板価値

実際、日本橋の有名デパートの特選呉服売り場で購入することや、銀座や京都の老舗呉服店で購入すること、そこには確かな価値があると思います。対して2014年に創業した京ごふく二十八では、看板価値のひとつである店の歴史を語ることはできないでしょう。老舗の呉服屋に追いつけるよう、まだまだブランディングにいそしまなければなりません。

呉服好きの人たちが集まるとよく話題になるのは「銀座の呉服屋で訪問着を買ったの」ということだったり「京都の老舗呉服屋の商品はやはり上品よね」といったお話。とりわけ昔ながらの呉服屋と、親御さん世代からお付き合いしているような方にとって、長く続いている呉服屋のブランド価値というのははかりしれません。それだけにしっかりとした有名な呉服屋で購入することは、そうした話題になっても「私は〇〇呉服屋で買ったのよ」といえる部分に価値はあるといえます。

ただ、ちがった視点の考察を書くことで、皆さんのお買い物のご参考になると思うので少しだけ思うところを書きます。

令和における呉服屋のめざすべき看板価値

昭和のころ、呉服屋の上顧客の中には「有名な呉服屋で買った」とか「○百万円で買ったの」という「看板と値札を自慢する」価値観が間違いなくありましたし、それでよかったと思います。ただ、それら看板のすごさを自慢するためには自分で「看板と価格を口にしなければいけません」。令和となった現代、それはちょっとオシャレじゃない気もします。

もう少しルイヴィトンやエルメスのバッグぐらい、誰が見てもそのブランドと価格がわかるほどに呉服屋の看板価値があれば良いのですが、一般の人はそこまで呉服屋に興味がないのでわかる人は少ないのはしかたがないことです(蛇足ながら総絞りや総刺繍は、着物に詳しくない男性が見てもすごいと感じさせられます)。メーカー名・作家名ではなく「呉服屋名義の商品」でのブランド力について考えると、有名な呉服屋のごく一部の商品をのぞき、商品だけを見て認知されているとまでいえる商品はほとんどないように思います。本当に数えるほどです。

加えて呉服にかぎらず、世の中の商売を見ていると、これからのブランド力で考えるべきことは上記のような商品・販促のブランディングだけではなく、サステイナブル(環境などを含めた持続性)、エシカル(倫理的)、透明性など、消費者が自然と応援したく取り組みをしているかも大切な看板価値になってくることでしょう。

呉服屋としての品質・価格・デザインのコントロール

そしてもうひとつ気になることとして、現代の呉服屋で「品質・価格・デザインをコントロールできている」ところが非常に少なくなっていることが挙げられます。これは看板価値にとって大切なことです。お客様が品質の高い、デザインの管理された(他の呉服屋で販売されない)商品を、適切な価格で買えるかどうかという問題ですから顧客満足度に大きくひびきます。

デパートの呉服売り場でそうしたものづくりへの気概を感じることは少ないですし、友禅であれば東京や京都、金沢などの老舗呉服屋でごくわずか残っているぐらいでしょうか。そして、それができるとすれば職人もしくは悉皆屋(しっかいや:京友禅のディレクター)などのメーカーに直接発注して、自社商品として作っている呉服屋だけです。

全国の呉服屋においても、友禅のみならず紬を含めてオリジナルのモノ作りをして、筋のとおった品揃えでファンを獲得している呉服屋はあると思います。

呉服屋のブランディング

そうした老舗呉服屋の看板に見合った商品・価格・ブランディングの取り組みがあれば、その価値はますます高まるはずです。しかしながら、一般的な呉服屋では問屋任せの商品構成、問屋から仕入れた価格に倍率を掛けるだけのプライス、ウェブやSNSでの発信不足や、素人が撮ったような写真などと見ている限り、そうしたことへの取り組みが不足しているように見受けられます。

ちょっと叱られるかもしれませんが、立派な老舗のデパート・呉服屋ほど「看板を切り売り」している感じさえ私は受けます。確かにピンキリのピン商品(高級品)もたくさんあるのですが、キリの商品にも看板をオマケにつけてそれなりの価格で販売している感じがするのです。またピン商品であっても、自社オリジナルデザインの着物でなければ看板に誇りを持って販売することはできないはずです。スピリットがこもりませんから。

とはいうものの、切り売りする看板さえないお店に比べたら、お客様が老舗の呉服屋やデパートの特選呉服売り場で購入するメリットは大変大きいもの。念のため書いておきますが、京ごふく二十八もブランディングは本当にまだまだですから、切り売りする看板さえありません。

逆に商売的にがんばっているのは専門呉服店や老舗呉服店というよりも、チェーンで振袖などの販売をしているような呉服屋です。商品の頑張りというのではないですが、若い女性に人気の芸能人に振袖を着てもらっての販促物・ホームページ作り込み、ショッピングモールなど入店しやすい場所への出店、明るく入りやすい店づくり、粘り強い営業など。どれをとってもビジネスとしてのガンバリは専門の呉服屋、老舗の呉服屋、もちろん二十八も見習ってしかるべきです。

呉服屋の看板・値札をぶら下げては着られない

呉服屋の看板や値札には大きな価値があるのは間違いありません。

ただ「看板や値札を着物にぶら下げては歩けない」のですから、高い商品クオリティ、TPOへのマッチ、ご本人に似合っていること、ご本人が嬉しい気持ちになれる呉服商品を、より買い求めやすい価格で提供することがブランドを高める道ではないでしょうか。

購入したお客様が看板と価格をしゃべって自慢するのではなく、周囲の人が見ただけで「素敵!」と思わせるような呉服の提供こそ、まず目指すべき大切な目標といえるでしょう。

(※同業である呉服屋の方々へ)

呉服屋の方々もかなり京ごふく二十八ブログを読んでくださっていると聞いています。

そうしたことに配慮して呉服屋の看板価値に関するこの項目は、当初書いていませんでした。理由は同業である先輩呉服屋の方々に対して、新興呉服屋の見解としては不遜だからです。しかしながら代表の原とも話しまして、やはり消費者の方々がより良い購買体験をするためには必要な項目と思い加筆した次第です。

「今さら言われるまでもない」とおっしゃる呉服店さんは、ここに書いたような取り組みは常日頃からされていることでしょう。ただ、呉服業界全体としてはこうしたことへの取り組みが不足していると感じていたことでしたので、悩みつつ書きました。ご指導はお受けしますので、どうぞ直接お声掛けください。訂正すべきご指摘があれば直します。

また重ね重ねになりますが、長く続いた歴史と信頼ある商売には私どもも大きな価値があると考えていますので、引き続き背中を追いかけたいと思います。

メリット5.オーダーメイドの着物が作れる

呉服店ではこのようなオーダーメイドの着物が作れる。写真は訪問着。

つづいて呉服屋で着物を選ぶ4つ目のメリットは「オーダーメイドの着物が作れる」ことです。

ひとつ前の項目で、看板と値札の話を書きましたが、オーダーメイドで自慢したくなるのは有名呉服屋の看板でも価格でもありません。「なぜその着物を染めたか」「色や柄にどれだけこだわったか」というお誂(あつら)えの魅力です。また職人が作り上げる過程を、楽しみに待った期間のことかもしれません。いずれにしても看板や価格に比べて、たくさんの人に話したくなるような深い内容が多いのかと思います。

一般の呉服屋では、染め上がった商品を販売することがほとんどです。ですが、こだわりのあるお客様にとっては、どんなにたくさんの商品が並んでいても「あなたにぴったり」の一着を見つけることは難しいもの。

着物は、「着ていく場所・年齢・好み・似合うかどうかのお顔うつり」によっても選ぶものが変わります。そのため「ピンクの地色で貝合わせ柄の訪問着が欲しい」と思っても、想像する通りの着物が呉服屋の在庫にあるかはわかりません。

呉服屋ではオーダーメイドで着物を作ることもできます。

もし見つかったとしても、価格が高かったり、嫌いな虫がデザインされていたり、手描きの染めではなく型染めだった…など、どこかで妥協しないといけなくなることも。

そのため、あなたにぴったりの着物を作るのであれば「オーダーメイド」がおすすめです。「オーダーメイドは高いんでしょう?」と敬遠される方も多いのですが、一般的な老舗の呉服屋などでオーダーメイドをしたとしても、在庫商品にくらべて特別高くなることはありません。そもそも高価ですしね…。

ただし、問屋さんなどを複数経由するような呉服屋はオーダーメイドをしても伝言ゲームになってしまうので、販売されている着物から選んだ方が無難ではあります。数は少ないですが、職人さんに直接仕事を頼んでいるような呉服屋でしたら、あなたのこだわりが全て詰まった着物をオーダーメイドでスムーズに作れることも覚えておくと良いでしょう。特に京都はそういう呉服屋がまだまだあると思います。

呉服屋は着物を選ぶ人の味方

呉服屋を味方につければ、あなたも素敵な着物姿を着こなすことができます。

呉服屋は、店内が見えず入りにくいと思っている方や、押し売りされて嫌な思いをされた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、そうしたことはどちらかといえばチェーン展開しているような呉服店に多いと聞いています。今回、いろんな専門呉服店・老舗呉服店にうかがってみましたが、本当に良い呉服屋はどんな些細な疑問にも付き合ってくれる、あなたの着物ライフパートナーになる存在だなと感じました。

その意味では、チェーンの呉服屋に入るよりも、かえって京都や東京の老舗呉服店などに入る方が安心してお買い物ができるかと思います。デパートの特選呉服売り場も同様の意味でおすすめです。

「こんな良い着物は他にないですよ」なんてうそぶく販売員さんもいるかも知れませんが、偶然見かけた着物をあわてて買う必要はありません。なるべく選ぶ期間に余裕を持ち、下見をたくさんして、ご自分に何が似合うか、お手持ちの帯とのコーディネートはどうか、どんな着物があれば着物ライフが豊かになるかなどをご検討ください。良い専門呉服店・老舗呉服店であればしっかり付き合ってくれるはずです。

その意味では着物選びの前に、信頼できる呉服屋・頼れる販売員に出あうことがなにより大切です。なるべく時間にゆとりを持って下見をしながら、最高の出会いとお買いものをしてくださいね。

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この記事を書いた人
原 巨樹 (はら なおき)

京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。

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