なぜ、デパートや専門呉服店の売り場でお客様は悩むのか。
つい最近、久しぶりにとあるデパートの呉服売り場をのぞきました。きっかけとなったのは、お客様に、
「呉服店さんやデパートを回っても、なかなかピンと来る商品がなかったんです。」
と言われた一言。
もちろん私だって大の着物好きですから、本当は色んなお店を回ってみたいなと思うものの、東京では常に着物を着ていますし(時には風呂敷も携行)、やはり着物を見る時の目つきや雰囲気が、一般男性のそれとはどうしても違ってしまうので気軽にお邪魔するとはいきません。そんなわけでちょっとドキドキしつつ、あるデパートに向かったのでした。わずか10分ぐらいの滞在でしたが、確かにこの商品構成、値札を見ながら、一般の着物ユーザーが良い品物を見抜くのは至難の業だろうなと思いました。
私が良いなと思う染めは、、、
私が売り場を拝見して良いなと思う染めの商品は2点でした。
お店全体では何千点と商品があったと思います。その中でも見やすく展示されていたのは数十点でしょうか。200〜300万円の値札がついた品物が多数並んでいるような豪華な売り場です。
良いなと思った品物は、
・糊糸目、訪問着、草花柄で280万円
・糊糸目、夏の付下げ訪問着、59万円
でした。その他ももちろん悪いというわけではなく、良い品物だとは思うのですが、見ているこちらの心にグッと迫って来るようなものではありませんでした。280万円の訪問着の横に、同じく260万円の訪問着が掛かっていましたが、こちらはゴム糸目で染められており、草花の色もどこか浅い感じがして、地色も何となく冷めた雰囲気です。
同じように色留袖も200万円代後半ぐらいの品物が並んでいましたが、訪問着に比べると柄のボリュームが6〜7割しかないのに、価格差があまりなくて、私が販売員だったら根拠の説明が難しいなと思います。
それに対して59万円の夏の付け下げ訪問着はとても良い品物でした。確かに訪問着に比べれば柄は軽いと思いますが、今時のご着用シーンは十分にカバーできますし、私も知っている職人さんが染めたものということが分かるので、その良質さは間違いないです。
色柄、製造方法、好み、金額が様々な商品を見ていると、だんだん訳が分からなくなって来ますね。これが10分ほど滞在しての、最終的な感想かも知れません。
商品を見て、誰が染めたかは推察できる。
商品を見て、どこの悉皆屋さんの仕事なのか、さらにはどの職人さんの仕事なのかも推察することは可能です。とは言っても、私もその点についてそんなに詳しい訳ではなく、自分の知っている範囲のみで判断ができるといった感じです。長年の悉皆屋さんはもっと細かくよくご存知の方がたくさんいます(呉服屋にはそんなすごい人はほとんどいないでしょうけれども)。
とは言え、自分が良いと思う悉皆屋さんのことは概ね知っているので、その意味では必要十分かとも思っています。
ただ、この「好み」、言い換えれば「審美眼」とでもいうべきものを、一般のユーザーさんが学ぶ機会がほぼ無いと思うのですが、学ぶ良い機会があれば良いなと思います。どこかの着物に詳しい人が、「〇〇先生の友禅は素晴らしい!!」と耳にされていると、結構その刷り込みの強さは強烈なものがあって、実際その思い込みから抜け出すのは大変なことです。
友禅染めの審美眼を身につけるために
友禅の良い物を知るために、唯一、最も有効で簡単な手段はインターネットの検索で
「糊糸目」
と入力して画像検索をすることです。
糊糸目と検索して出て来る写真には、安っぽい雰囲気はほぼ見受けられません。概ね上質な友禅染めがご覧になれるでしょう。こうした写真で目を慣らすことが、より良い友禅が見抜ける第一ステップになると思います。
まとめ
結論を書くとすれば、
「品質と価格について、わかりやすく説明される必要がある」
ということです。
クオリティによらずに高価格の値札と共に様々な商品が並んでいる売り場では、一般ユーザーが良い商品を見抜いて、ご自分に相応しい品物を購入するということはなかなか骨の折れることだろうなと思いました。
では、どうすれば良いお買い物に繋がるかと言えば、
良い販売員さんに、「糊糸目の手描き友禅を見せてください」とお伝えすることです。
良い販売員とは、着物のことなら概ね何でも知っていると共に、感じの良い人です。
「感じが良い」というのは漠然としていますし、感じる人にもよると思いますが、ご自分にとって感じの良い人ということで大丈夫です。感じの良い人から買うと良い運気まで買わせて頂いているような気になります。私も自分の買い物ではいつも良い人から買うことを大事にしています。私がお邪魔したデパートの販売員さんは感じの良い方でした。
審美眼なんて大げさなことも書きましたが、着物の良し悪しといっても単なる私の好みですのであまり囚われないで頂けたら幸いです。
【関連記事】
・決定版!!【訪問着と付け下げの違い】呉服屋も知らない究極の答え
・初心者が必ず悩む【付け下げ訪問着】とは!?京ごふくのプロが解説!
京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。
あわせて読みたい記事
-
呉服店でのお買い物:価格で悩んだ時に考えてほしい品質のこと。
先日、経験豊富な呉服屋さんとお話をしていたら、その方が、 「やはり初めての方であっても、価格で妥協せず、何年かけてでも良いから良い品物を買ってほしい」 と仰っていました。私もこのご意見に強く同意をする者です。 なるほど確 […]
-
プロが教える【名古屋(愛知県)の呉服屋24選】老舗呉服店・専門呉服店
きちんとした着物を買いたいと思われる方にとっても、 「どこの呉服店にいけば、良い着物を買えるのだろう。。。」 と思われる方は多いもの。 こちらの記事では名古屋の有名な老舗呉服店、専門呉服店の店名を掲載したいと思います。京 […]
-
着物が初めてという方へ 京ごふく二十八の自己紹介
着物の「価格・品質・サービス」に安心を 着物への憧れ 経済産業省の調査によると、着物を着たことがある40〜50代女性の54.5%が今後も着物を着たいと思っているそうです。また、調査対象者の76.7%が冠婚葬祭や儀式などで […]
人気の記事
-
誰でも一瞬で【付け下げと訪問着の違い】を見分けられる京都の秘伝!
すべて読むと【15分】 流し読みで【5分】 訪問着と付け下げの違いについて、実をいうと、プロの呉服屋でも矛盾なく説明できる人はほぼいません。 これを皆さんが本当に理解しておいてくだされば、それだけ無駄な買い […]
-
呉服店では怖くて聞けない【訪問着 値段の相場】プロが教えるここだけの話
訪問着の値段について、初めて着物を買おうと思われる皆さんは「相場っていくらぐらいなのだろう?」と迷われる方は多くいることでしょう。 ズバッと「いくらぐらいの訪問着を買ってください!」と言えれば良いのですが、着物に対する価 […]
-
【リオ】小池百合子 東京都知事の着物を賞賛すべき8つの理由。
リオ閉会式における小池都知事の着付けや、立居振舞について、ネット上で多くの批判が並んでいる様子を見て非常に驚きました。なぜならば小池百合子さんのお着物姿、完璧と言って良いぐらいの着物選び、コーディネートだったからです。 […]