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特別コラムSpecial Column

「黒・リバーシブル・裏勝り」というチャレンジ    お誂え主:清水恵子さん(スタイリスト) Vol.01

ファッションの世界の第一線で長く活躍するスタイリストの清水恵子さん。たくさんの服に触れてきたおしゃれのプロがオーダーしたのは、既成概念を超えた着物。審美眼の持ち主の妥協のないリクエストに、京ごふく二十八、そして京の職人たちの新しくて、心躍る挑戦がはじまったのは2020年10月。その完成までの軌跡を追いました。第1回は、お誂え主、清水さんの理想の着物について。

 

清水さんのご希望は、リバーシブルの着物。ここでは、慶弔用(写真は後出)を合わせ、一着で4パターンの着方を披露してくださいました。

 

和洋の垣根を越えたドレスのような着物を

「小さい頃から日常の中に着物の存在はありました。祖母がとってもこだわりのある人だったので。でも、時代の流れにより洋服におされ、着物はいつからかハレの場に着るもの、そしてしきたりやマナーなどもあり、着るのもハードルが高いという風潮になってしまった。そういう気持ちを超えるような、ドレスのように着られる着物があればいいのにって思ったんです」と着物への想いを語る清水さん。ご自身が長女であることもあり、せっかく誂えるなら家紋を入れた黒の礼服を、というのが今回のストーリーの出発点。「ドレスで黒は当たり前であり、とても汎用性の高い色。私のワードローブにも欠かせない色ですから、黒をキーカラーに選びました」。

同じ黒とは言え、染めひとつで仕上がりの表情に違いが出る黒無地。慶びのお席でも、悲しみのお席でも着られる一着に。

 

紋入り黒無地に求めたのは慶弔両用

「昔は婚礼の際に花嫁もその親族も黒無地の着物だったと祖母から聞いたことがあって。いまのような裾に模様が入った留袖ではなくてもいいのではないかと思い、この先、いつか子供たちの結婚式もあることだし、着こなし方次第で慶弔どちらにでも着ていけるものをお願いしました」と清水さん。

洋服の世界とは違い、和服の黒無地は喪服に通じることもあり気軽に使える色ではないので、このリクエストは京ごふく二十八にとっても驚きであり、初めてのもの。着物に詳しい人ほど慎重な意見も多く、注意深く着地点を模索しました。まずは固定概念を取り払い、TPOはきちんとおさえつつ、染めや仕立てを職人たちが工夫することで、清水さんの希望に真摯に向き合いました。もちろん悲しみのお席でも失礼のないように。その工夫のひとつが、紋の入れ方。五つ紋が礼装とされますが、今回は小さめの一つ紋にしました。五つ紋ほど格式が高すぎず、それでいてフォーマルな場にもふさわしいうえ、さりげないので観劇やパーティなどでも着用できる汎用性の高さが魅力です。

 

背中に家紋をひとつ。五つ紋より、ぐっと実用的で現代のライフスタイル向き。一つ紋の新しい魅力を発見できました。

 

また、黒へのこだわりも強い清水さん。微妙なニュアンスで表情が変わることを長年のキャリアからご存知なだけに、彼女が選んだ染色法は、昔ながらの、そして手間暇かかる「三度黒」という伝統的な技法。摩擦による色落ちや、経年による退色の可能性もあり、現在では化学染料での染め「染料ブラック」が主流ですが、植物染料を使用し、三段階で染める三度黒は化学染料では出せない品格と風合いがあります。(*残念ながら、三度黒のオーダーを受けることは今後叶いませんが、染料ブラックでも十分奥深い黒に仕上がります。)

 

裏地をもうひとつの着物にという発想

「シンプルに、一着でいかようにもスタイリングできると、着物を着る機会も増えると思ったんです。裏地をもうひとつの着物として仕立て、リバーシブルにできれば、着こなしの幅も広がるし、素敵だなと」。そんな清水さんが、もう一着の着物として選んだのが、大胆なカトレア柄の織模様をブルーグレーで染め上げたもの。カトレアは季節を問わず一年中着られ、欧米の方も知っている花というのが選んだ理由だとか。

黒無地との相性もいい、ブルーグレー。リバーシブルに仕立てるためのディテールの微調整は、熟練の職人による手仕事だからこそ叶う繊細な作業。

 

インスピレーション源は、以前お仕事で草笛光子さんのために用意した、マックスマーラ社の織柄のロングドレスだとか。「美しいものを着たいという気持ちはドレスでも着物でも同じ。無地なのに華やかさがあって、とても上品なドレスだったんです。ニュアンスのあるブルーグレーの色は、ジルサンダーのカラーパレットから。三度黒の途中経過である、二度塗りの際の色が偶然にもブルーグレーに近い色で、この色にして間違いなかったんだと確信しました」。

大胆なカトレア柄も織りで表現されているので、モダンな印象に。ロングドレスからの着想を元に、帯も同じカトレア柄の織りにし、色は白と、シンプルシックな装いに仕上げて。

 

今回、清水さんの理想の一着を完成させるため、京ごふく二十八はそのアイディアを具現化し、普段からお付き合いのある一流の職人たちを手配させていただきました。実は、着物一着が出来上がるまでに、京ごふく二十八が「悉皆屋」としてご一緒する職人の数は、みなさんの想像をはるかに超えると思います。というのも、京都の着物職人はすべて分業制の世界。何十種類とある染める前の反物選びから、染め、紋付けまで、ひとつひとつ一緒に作り上げていきました。その様子はVol.02でお伝えいたします。

Photo: HAL KUZUYA

Text: SHIHO AMANO

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この記事を書いた人
原 巨樹 (はら なおき)

京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。

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