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商品紹介Kimono

訪問着[蛤に宇治十帖 白緑]

宇治十帖の訪問着

ご自身のエピソードを染める

こちらの訪問着は源氏物語がテーマになっており、古典的・正統派の訪問着です。でも、単なる源氏物語がテーマではありません。お誂え主様の「お住まい・ご出身」というエピソードに取材した訪問着になっています。

柄になっている宇治十帖は、長く住んでおられる宇治が題材です。宇治には源氏物語ミュージアムもあります。

その宇治十帖を蛤(はまぐり)で囲んで着物の図案としているわけですが、この蛤にも意味があります。お誂え主さまのご出身が三重県桑名市で、名産が蛤なのです。

つまり「ご出身が蛤」に、「現在のお住まいが宇治十帖」として描かれているのです。こうした着物は「あなただけのために」染めなければ存在しませんし、他の誰かが着ても意味をなしません。「エピソードを持つあなた」が着こなすからこそ輝くお着物なのです。

 

白緑(びゃくろく)


地色は白緑。白という文字は“淡い”ということを意味します。孔雀石という鉱物を原料とした岩絵具のことです。淡くて綺麗な緑系の地色です。お納め後、お召しになった二条城の芝生にもとても美しく映えていました。このように美しい地色の着物はお召しになる方のお気持ちを盛り上げてくれるものと思います。

 

読み取る力があって「感動」できる

今回、この訪問着を作りながら何度も感動を覚えました。なぜかと言えばすごく「語り掛けてくる」からです。こんなに語り掛けてくれる着物には正直、出会ったことがありません。しかしながら何故こんなに着物が語り掛けてくれるのかと言うと、それは私に「読み取る力」ができたからです。

この訪問着を作らせて頂くまでは、私も宇治十帖のストーリーはちゃんと知りませんでした。それがお誂えのために、宇治十帖を学んだことで、訪問着が語り掛けてくるメッセージを読み取れるようになったのです。

江戸時代の染め表現と文学的教養

桃山時代までの縫い絞りでは繊細な柄の表現することが大変でしたが、江戸時代に友禅染が発明されたことで、非常に細かい柄を表現しやすくなりました。その結果、古典文学に取材された小袖が作られるようになったのです。その中の一つとして源氏物語がよく取り上げられました。

江戸時代の表現方法は、源氏物語の登場人物が持っていたお琴や琵琶、几帳などを景色の中にさり気なく配置して、見る側がストーリーを推察する、そんな洒落たものだったようです。その他にも和漢朗詠集ぐらいは知っていないと、小袖のテーマが何なのかうかがい知ることもできません。教養が必要だったんですね。

近 代

その後、時代が下がるに従って人物そのものが有名な場面として描かれるようになりました。

近年では私が源氏物語を詳しく知らないのと同じく、ストーリーまで知っている現代人というのは極めて少数派になったのではないかと思います。それゆえに直接的に描かれていてもそれが何の場面で登場人物のどんな心情を表しているのか全く分からないのです。そうすると着物に描かれた場面を見ても単に「源氏物語だよね」というぐらいの感想しか持ち得ません。

現代の呉服店において、源氏物語の訪問着は極めて少数になりました。私も宇治十帖は少し詳しくなりましたが、その他はほとんど分かりません。源氏物語のストーリーを知らなければ、感動できませんからご購入される方も少なくなるということは言えるでしょう。

 

読み取る力

この図案を創作するまでに、お客様と相談し、染め屋、下絵職人と相談しながら何度も描き直しをしてより良い着物になるように制作して来ました。その過程で、何度も何度も物語を読み直して「このシーンはこの図案にしよう」なんて考えている内に、自然と物語を覚えてしまったのです。

それゆえ作る過程で訪問着の柄を見ながら何度も涙を感じるような感動がありました。着物を染めるために源氏物語の本を7、8冊ほど取材した結果、着物の柄を見ながら宇治十帖のストーリーを読み取ることができるようになったからです。

 

宇治十帖のストーリー

橋姫(上前)

ストーリーは上前にある橋姫から始まります。薫(光源氏の次男)が、大君(おおいぎみ:八の宮の長女)と中の君(なかのきみ:次女)を垣間見て惹かれて行きますが、薫は恋い焦がれた大君とは結ばれることができませんでした。

早蕨(胸柄)

その後、大君まで亡くなってしまい、父に続いて姉まで亡くしてしまった中の君が阿闍梨から新年の習わし通り、蕨や土筆が入った籠を受け取るのが「早蕨」。

宿木(上前下)

そんな中の君を女房に迎え入れた匂宮(薫のライバル)が、中の君を琵琶で慰めるシーンが「宿木(やどりぎ)」。

浮舟(右袖後ろ)

その後、薫は亡くなった大君に生き写しの浮舟と出会うのですが、匂宮と浮舟を奪い合うことになります。そして匂宮と浮舟が親密になった場面が出袖(でそで:右袖後ろ)にある「浮舟」。

夢浮橋(右後ろ身頃)

これをきっかけに浮舟は恋の板挟みになってしまい最終的に出家してしまうのです。これが右後ろ身頃「夢浮橋(ゆめのうきはし)」。

本当にざっくりしたあらすじですが、如何でしょう、ちょっとストーリーを知るだけでもその場面における登場人物達の心情を想像してしまうのではないでしょうか。ストーリーを知らなければ「源氏物語ですね。お姫様が綺麗ですね」というぐらいの感想しか持てませんが、ストーリーを知れば、一つ一つの場面から、登場人物の心情が想像されて、感動が生まれます。

 

 

あげまきに 長き契りをむすびこめ おなじところに よりもあはなむ

さらにこの着には隠れテーマがあります。それが総角(あげまき)です。ストーリーとしても「総角」というのがあるのですが、それはこの歌に起因します。

「あげまきに 長き契りをむすびこめ おなじところに よりもあはなむ」(あなたが縒り結んでいる総角結びのように、あなたと私が長く寄り添えるようになりたいものだ)

総角結びという結び方があるので、良かったら調べてみてください。実際この訪問着において総角結びまで描いてしまうとテーマがはっきりしなくなってしまいます。そこで総角結びをするための紐だけを配置して、これを結び付けるのはおめでたい結婚式ならば花嫁花婿さんということになるでしょう。また源氏物語が象徴するのは昔から変わらぬ人間らしさであり、それを円満に包み込むのが総角結びの代わりに番いでなければピッタリと合わさらない「蛤」であるとも言えるのです。

こんなエピソードがあれば、お召しになった先でお誂えの過程まで含めて色々とお話頂けるのではないでしょうか。実際、お誂え主様は大変にお喜びくださいました。ご家族で長く受け継いで頂けるお着物になればとても嬉しいです。

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この記事を書いた人
原 巨樹 (はら なおき)

京ごふく二十八代表。2014年、職人の後継者を作るべく京都で悉皆呉服店として起業。最高の職人たちとオーダーメイドの着物を作っている。

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